INTERVIEW 田中彩子(ソプラノ) 〜ジャンルを超えた名曲カヴァーで新境地を開拓

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 コロラトゥーラ・ソプラノとして絶大な人気を誇る田中彩子。昨年デビュー10周年を迎え、新たなステージに突入した彼女が全国8ヵ所で行う今年のコンサート・ツアーは、「コロラトゥーラ・ファンタジー」と名付けられている。

「子どもの頃、ファンタジー小説が大好きだったんです。福永令三さんの『クレヨン王国』シリーズが特に好きで、夜寝る前にいつも読んでいて、ページをめくるたびに現れる風景や世界にワクワク、ドキドキしていました。今回のコンサート・ツアーは、その頃感じた楽しさやワクワク感をプログラムに反映させたいと考えて、ファンタジー作品に出てくる曲や、物語性のある楽曲を中心に構成しています」

 ドビュッシー「月の光」でスタートする前半は、夢や自然や神秘的な世界を描いた作品が並ぶ。

「アーンの〈クロリスへ〉に出てくるクロリスは、花の女神フローラに変身した娘のことで、歌詞の中には神々の食べ物であるアンブロワーズという言葉が登場するなど、神話が下敷きになっています。前半最後に歌うオッフェンバックのオペラ《ホフマン物語》からのアリアは、機会人形オランピアのファンタジーを描いたもの。他に、メシアンやアリャビエフは鳥の鳴き声をコロラトゥーラの音色によって表現する曲です」

 そして後半は、「映画の世界」がテーマ。バッハ、パーセル、モーツァルトなど田中彩子の得意とする作曲家が並ぶが、選ばれている曲は映画の中で印象的に用いられている曲だ。さらに、いわゆる「映画音楽」や1960年代のユーロポップのナンバーが入っているのも目を惹く。

「『シバの女王』や『シェルブールの雨傘』などは子どもの頃から聴いてきた曲で、いつかは歌いたいと思っていました。モリコーネの『ニュー・シネマ・パラダイス』『ネッラ・ファンタジーア』など、どの曲も、世代を超えたエバーグリーン・ミュージックとして色褪せない魅力を持っているので、こうした楽曲にあまり馴染みのない若い世代の方にとっても新たな出会いになってくれればいいな、と思っています」  10周年という節目を超え、田中彩子の音楽表現には「肩の力が抜けた」ような、より自然で自由なスタイルが表れてきているようだ。彼女自身、「11年目に入り、コロラトゥーラという声質が持つ多様な世界観を、より面白い形で皆さまにお見せしていきたい」と意欲を語ってくれた。田中彩子のコロラトゥーラが連れて行ってくれるファンタジックな世界が今から楽しみだ。

取材・文:室田尚子

田中彩子 ソプラノ・リサイタル 2025「コロラトゥーラ・ファンタジー」
9/19(金)18:30 長野/木曽文化公園 文化ホール
(0264-23-8011)
9/27(土)14:00 アクロス福岡シンフォニーホール(KBC チケットセンター092-720-8717)
10/12(日)14:00 岐阜/サラマンカホール(SOGEI (ソーゲイ) 0561-76-7231)
10/26(日)15:00 長野/八ヶ岳高原音楽堂(八ヶ岳高原ロッジ0267-98-2131)
11/2(日)14:00 所沢市民文化センターミューズ マーキーホール(チケットスペース 03-3234-9999)
11/8(土)14:00 大阪/住友生命いずみホール(ABC チケットインフォメーション 06-6453-6000)
11/15(土)15:00 豊田市コンサートホール(東海テレビチケットセンター 052-951-9104)
12/7(日)19:00 第一生命ホール(チケットスペース 03-3234-9999)
https://avex.jp/classics/ayakotanaka2025/


室田尚子 Naoko Murota

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京科学大学・昭和音楽大学非常勤講師。NHK-FM「オペラ・ファンタスティカ」レギュラー・パーソナリティ。オペラを中心にアーティストのインタビューや演奏会の紹介記事、エッセイなどを手がけるほか、ミュージカル、ロック、少女漫画などのジャンルでも執筆活動を行なっている。著書に『オペラの館がお待ちかね』(清流出版)、共著に『ヴィジュアル系の時代 ロック・化粧・ジェンダー』(青弓社)など。