2025年12月の海外公演情報

Wiener Staatsoper Photo by Dimitry Anikin on Unsplash

『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。
[以下、ぶらあぼ2025年9月号海外公演情報ページ掲載の情報です]

曽雌裕一 編

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 12月の注目公演は、まずはベルリン・フィル。というのも2025/26シーズンにこのオケを初めて振る指揮者は5人だが、そのうち2人が12月に登場するからだ。しかも、それがジョルディ・サヴァールとラファエル・ピションという、古楽界では、今さら何をか言わんという超巨匠老練大指揮者と、飛びきりの売れっ子若手スター指揮者であるという驚き。もうそれぞれに確固たる地位を得ているこの2人をなぜベルリン・フィルが起用したのかも興味津々だが、そのオファーを受けた彼らにもビックリ。特に御年84歳の名匠サヴァールがベルリン・フィルを相手に何をやるのだろう。彼の通常の相棒であるコンセール・デ・ナシオンやエスペリオンXXIとは、それこそ妖精が典雅に天空を漂うような、優美かつ繊細、しかもそれだけでなく和声的には大変厳しくコントロールされた音楽をいつも聴き手に提供してくれる。しかも、サヴァール自身の放つ老齢の色気がまたたまらない。このような人間的な魅力の横溢した老匠指揮者に、どちらかといえば奏者個人の卓越した技量とパワフルなアンサンブルで勝負するベルリン・フィルがどのように調和していくのか。いやいや、これは興味の尽きない組み合わせだ。古楽系の若手・中堅指揮者として引っ張りだこのピションにしても、ベルリン・フィルという荒馬の手綱をどう取っていくのか楽しみ。

 一方、ウィーン・フィルの方は、久々登場のウェルザー=メストに注目。オペラでも、ウィーン国立歌劇場でベートーヴェン「フィデリオ」のプレミエを任され、ウィーンのクリスマス・シーズンを盛り上げる。もちろん、フルシャの指揮するウィーン・フィルも聴き物。

 ベルリン州立歌劇場は、やっと音楽監督ティーレマンの出番が本格化してきて、9月から10月にかけてのワーグナー「リング」ツィクルスを終えたところで、12月にはベルクの「ヴォツェック」を上演する。「ヴォツェック」は、10月にはラトル=バイエルン放送響、11月には大野和士指揮の新国立劇場、そして12月にはベルリンでティーレマン指揮、と偶然ではあろうが、注目公演が毎月並ぶこととなる。巨匠クラスのオペラということでは、バイエルン州立歌劇場の大晦日恒例、J.シュトラウスの「こうもり」を振るのがズビン・メータというのも、これまた驚きのキャスティング。音楽監督のユロフスキーはどこ行ったの?と思ったら、もう一つのポストであるベルリン放送響でベートーヴェンの「第9」を振っていた。J.シュトラウスの「こうもり」は年末、多くの劇場で上演されるが、チューリヒ歌劇場のプレミエ(ヴィオッティ指揮)やウィーン国立歌劇場(カウフマン出演)での公演が、大晦日の「こうもり」の中では面白そう。

 大晦日の話が出たついでに、面白そうな大晦日コンサートを見てみると、ウィーン・フィルがネゼ=セガン指揮、シュターツカペレ・ベルリンがティーレマン指揮、ベルリン・フィルがペトレンコ指揮、ベルリン・コンツェルトハウス管がマルヴィッツ指揮、チューリヒ・トーンハレ管がガーディナー指揮というところだろうか。

 オペラの話に戻ると、12月7日はミラノ・スカラ座のシーズン開幕の日。今年は、何とショスタコーヴィチの「ムツェンスク郡のマクベス夫人」で幕開け。イタリア・オペラを待望する方には肩透かしを食らったような選曲だが、ローマ歌劇場の開幕もワーグナー「ローエングリン」なので、驚く必要もなかったか…。他には、シャンゼリゼ劇場でのミンコフスキ指揮によるオッフェンバック「ロビンソン・クルーソー」などは、いかにも楽しそうな公演。

 オーケストラ公演では、ペトレンコが古巣のバイエルン州立管を振るチャイコフスキー第4番メインの公演、サロネンがベルリオーズ「幻想交響曲」を振るバイエルン放送響、ヴィオッティ指揮ミラノ・スカラ座管(ストヤノヴァ出演)、ムーティ指揮フィレンツェ五月音楽祭管、ラトル指揮チェコ・フィル、ケント・ナガノ指揮ベルリン・ドイツ響等々。

(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)