欧州で活躍するヴァイオリニスト・佐藤俊介が、2日間全3回の演奏会でベートーヴェンのソナタ全曲に挑む

左:スーアン・チャイ 右:佐藤俊介 ©Marco Borggreve

 コンチェルト・ケルン、オランダ・バッハ協会などヨーロッパの第一線で活躍してきたヴァイオリニストの佐藤俊介と、フォルテピアノ奏者として数々の優れた録音をリリースしているスーアン・チャイが、この10月にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を浜離宮朝日ホールで開催する。しかも、2日間、全3回の公演で、ヴァイオリニストにとって最も重要な作品と言えるこれらの傑作を弾き切るという。

 実はこの全曲演奏会には伏線がいくつかあった。まず、ふたりが最初に出会った時にベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」を演奏して、意気投合したこと。その後、共演を重ねる中で、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ10曲を一気に演奏する機会を2度も持ったこと。さらには全曲の録音を通して、より一層この傑作群の理解を深めたこと、である。

 今回の10曲のラインナップを見て気づいた方もいると思うが、「クロイツェル」は通常の表記とは違い、「クロイツェル/ブリッジタワー」とされている。そもそもこの作品はベートーヴェンが出会ったばかりの名ヴァイオリニスト・ブリッジタワーの才能に惚れ込み、彼のために書いたという経緯があった。それを尊重して、この表記を使うことにしたという。ガット弦を張ったヴァイオリン、そして1830年製のローゼンベルガーによる響きがホールに満ちて、ベートーヴェンの知られざる一面を教えてくれるに違いない。

文:片桐卓也

(ぶらあぼ2025年8月号より)

佐藤俊介(ヴァイオリン) & スーアン・チャイ(フォルテピアノ)
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全曲
2025.10/9(木)19:00、10/10(金)14:00 19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 

https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/
※公演によりプログラムが異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


片桐卓也 Takuya Katagiri

1956年8月、福島県生まれ。早稲田大学在学中からフリーランスとして仕事を始め、映画、旅、自動車などの雑誌に関わる。1990年ごろから本格的にクラシック音楽関係の取材を始め、音楽雑誌に寄稿している。他に、コンサートの曲目解説、録音のライナーノーツの執筆なども多数。余裕があれば、バロック期のオペラを聴きにヨーロッパへ出かけている。趣味は都会の廃墟探訪。