
文:柴田克彦
アーティスティック・リーダーを務める世界的ピアニスト・辻井伸行とヴァイオリニスト・三浦文彰をはじめ、トップクラスの音楽家が集結する〈サントリーホール ARKクラシックス〉。今年は10月3日から7日まで、11の公演(大ホール4、ブルーローズ7)が開催される。以下、主な見どころをご紹介しよう。
巨匠ヴァイオリニストの至芸を楽しむ

まず今年の目玉といえばピンカス・ズーカーマンの出演。その多彩な手腕を最大限に堪能できるのが「ピンカス・ズーカーマンの芸術」(10/4夕方)だ。本公演では、モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲でヴァイオリンの豊潤な音色と高度な技巧、および弾き振りの妙技を、モーツァルトのピアノ協奏曲第26番「戴冠式」とドヴォルザークの交響曲第8番で2ジャンルの指揮者としての卓越した音楽性が示される。しかも、協奏交響曲では三浦文彰の“ヴィオラ”*、「戴冠式」では辻井伸行のソロを(もちろんズーカーマンと彼らとのコンビネーションも)味わえるのが嬉しい。管弦楽のARKフィルハーモニックは、ソリストや著名楽団の辣腕奏者が集う豪華オーケストラ。同楽団とのコラボを含めて、ここでは今年のARKクラシックスの特長をまとめて享受できる。
またヴァイオリニスト、ズーカーマンは、「豪華ソリストの競演」(10/5夕方)で、ピアノの清水和音、チェロのアマンダ・フォーサイス(ズーカーマンがトリオを組んでいる奏者)と共に、ベートーヴェンの三重協奏曲のソロを弾く。この豪華なトリプルコンチェルトも大注目だ。さらに本公演では、辻井が弾くグリーグのピアノ協奏曲も楽しめるし、チャイコフスキーの交響曲第5番を含めた全曲で三浦の指揮に触れることができる。三浦は近年指揮者としても濃密かつ堂々たる演奏を展開しているので、彼が気心の知れたARKフィルと生み出す音楽にも熱視線が注がれる。
*編集部注)当初の発表から担当楽器が変更され、協奏交響曲はピンカス・ズーカーマン(指揮/ヴィオラ)、三浦文彰(ヴァイオリン)となりました。
国内外の人気アーティストが集結

右:三浦文彰 ©Masahiro Uto
大ホールでは、以上2公演の他に「辻井伸行 浪漫&超絶技巧スペシャル」(10/4昼)、「辻井伸行 ショパン・スペシャル」(10/5昼)も行われる。むろん進化を続ける辻井のピアノ演奏に浸るコンサートだが、ロシアものやリストをはじめとする技巧曲、常にロマンティックな表現で魅了するショパンと、テイストの異なるプログラムを体感できる点がチャーム・ポイントだ。
ブルーローズ(小ホール)では、実力者たちのアンサンブル公演が中心をなしている。その中で、音楽祭の核となる辻井と三浦両名が出演するのが、「ARK オープニング・ナイト」(10/3)と「ARK ランチタイム・コンサート」(10/7昼)。両公演共に様々な楽器の名手たちとのコラボが次々に披露されるので、バラエティに富んだ室内楽を生体験する格好の機会となる。
名手たちの競演
さらには、日本を代表する円熟の名手が至芸を披露する「清水和音 室内楽スペシャル」(10/4昼)、「曽根麻矢子 バッハ・スペシャル」(10/5昼)の両公演も見逃せない。前者では、極め付きのベートーヴェン「熱情」の他、並ぶ者なき室内楽の達人・清水がスター奏者たちと奏でるモーツァルト&ドヴォルザークのピアノ四重奏曲が興味津々。国際的なチェンバロ奏者の名演でバッハ漬けになれる後者では、ソロの名曲の他、古楽の達人たちと共演する「音楽の捧げもの」(抜粋)が目を奪う。この両公演はコアなファンにもお薦めだ。

ジャンルを超えた金管のスターたち
一方、本音楽祭ならではの特徴といえるのがブラス系の公演。「松井秀太郎スペシャルLIVE」(10/4夜)では、抜群のテクニックと表現力を誇るジャズ・トランペットの旗手が、強者揃いのトリオを率いて圧巻のステージを繰り広げる。もう1つ、もはや貴重な名物となった「ARK BRASS」(10/6夜)では、日本屈指の金管楽器奏者が集って、「スター・ウォーズ」「スタジオジブリ」の各組曲や、レジェンド、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルゆかりの楽曲など、名人芸と楽しさ満載の音楽を聴かせる。加えて後者には、世界最高の超絶トランペット奏者セルゲイ・ナカリャコフがゲスト出演。この夢の共演も特注というほかない。

そして、ズーカーマン、ナカリャコフ、辻井、三浦、清水等、今回出演する多数のスーパーソリストが参加する「ARK クロージング・ナイト」(10/7夜)が最後を締めくくる。ここでは、ズーカーマンと三浦のヴァイオリン・デュオ、ナカリャコフと辻井の共演、ズーカーマン、三浦、清水等によるブラームスのピアノ五重奏曲その他、豪華絢爛なプログラムを通して、音楽祭の佳きエッセンスを満喫できる。
なお、全公演がアーク・カラヤン広場に設置された大スクリーンでライブ・ビューイングされるので、そちらで気軽に楽しむのも良し。ここはぜひ超一流の名技に酔いしれたい。
(ぶらあぼ2025年7月号より)
サントリーホール ARKクラシックス
2025.10/3(金)〜10/7(火) サントリーホール
問:チケットスペース03-3234-9999
サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
https://avex.jp/classics/arkclassics2025/
※完売公演あり。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

