【CD】渡り鳥/ナタリー・デセイ&フィリップ・カサール

 いかなる生命も不滅ではない。ナタリー・デセイは歌手としての生命を、フィリップ・カサールとのツアーで自ら終わらせた。ラスト・アルバムは20世紀アメリカのオペラとミュージカル・ナンバー(プレヴィンやバーバーなど)と近代フランス歌曲(ラヴェルやプーランクなど)。30分の短時間収録だが、内容は濃い。自らを託したのか鳥をモティーフにした曲が多く選ばれ、かつ去りゆくものへの惜別や痛みに満ちた歌詞が並ぶ。そしてデセイの歌は別れの達観など微塵もなく、歌手としての全能力を注ぎ込み激しく燃え上がる。生命を焼き尽くし、録音に残された歌は「不滅」となる。アデュー!
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年5月号より)

【information】
CD『渡り鳥/ナタリー・デセイ&フィリップ・カサール』

プレヴィン:歌劇《欲望という名の電車》より〈私が欲しいのは魔法〉/バーバー:「はかない歌」より〈すべては過ぎ去るから〉/ショーソン:ハチドリ/ラヴェル:天国の美しい3羽の鳥/プーランク:モンテカルロの女 他

ナタリー・デセイ(ソプラノ)
フィリップ・カサール(ピアノ)

La Dolce Volta/ナクソス・ジャパン
LDV150 ¥オープン価格