石上真由子(ヴァイオリン)

若手実力派による弦楽トリオ、本格始動!

©Masatoshi Yamashiro

 頼もしい室内楽のグループが多数現れるなか、まだまだ稀少なのが弦楽三重奏団。そこに颯爽と登場したのが、石上真由子(ヴァイオリン)、中恵菜(ヴィオラ)、佐藤晴真(チェロ)という若手の代表的名手によるトリオ。昨年1月のHakuju Hallでのデビュー公演で絶賛を博し、この9月に改めて本格的に始動する。卓越したソリストでありながら「Ensemble Amoibe」の主宰をはじめ、アンサンブルを活動の柱のひとつとする石上は、弦楽トリオは大好きな編成と語る。

 「3人全員がメロディを弾き、ベースラインで支えにもなる。カルテットのような調和もあれば、3人のチャンバラみたいになる場面も。そういった幅広さがすごく面白い。このメンバーならその良さが充分に出せると思います」

 初顔合わせの公演は1時間ほどの名品アラカルトだったが、今回は「トリオとしての正式な第1回目公演」との位置付けで、ウィーンをテーマに重厚なフルプログラムを用意。ことにシェーンベルクの重要作が目を引く。

 「シェーンベルクは私の偏愛曲なんです!(笑)  好きなあまりほぼ暗譜しているほどです。今回はウェーベルンと組み合わせて十二音技法の聴き比べもしていただければ。そして時代を遡り、シューベルトからウィーンに移る前のベートーヴェンへとつなげます」

 石上によると、複雑な十二音音楽であっても、感覚的にとらえることは可能という。

 「古典の作品に取り組む感覚で読み解けると考えています。シェーンベルクは形式的で、十二音技法だけど和声を感じる。古典的な和音から外れても、そこに戻りたいという引力を感じ、戻ったときには安堵を覚える。そんな不思議な魅力があって、個人的にはキュンとするところです(笑)」

 続いて、その1世紀ほど前の二大家の“第1番”で意気込みを示す。

 「シューベルトの第1番は完成されたのは1楽章だけです。これに限らず彼には未完成の作品が多いですが、簡単には満足せず、より美しい世界を求め続ける彼の人生観や音楽感の表れだと思いますし、私たち音楽家の人生とも重なるところがあると感じています。

 ベートーヴェンの第1番は約40分の気合いの入った大曲ですが、様々な形式による多楽章の曲で面白く聴けると思います。彼の得意とする変ホ長調ですが、曲中に出てくる変イ長調(As-dur)の場面が美しくて…。彼のAs-durの響きは慈愛に満ちていますよね」

 一見すると硬派な演目だが、石上は「怖がらずに来てみてください! この3人でなければ体験できない、10年経っても心に残るような演奏になると思います」と熱く誘う。「弦楽トリオ」というジャンルの認識までも変わるような公演になるはずだ。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年7月号より)

石上真由子 & 中 恵菜 & 佐藤晴真
2024.9/12(木)19:00 Hakuju Hall
6/22(土)発売
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp