【CD】ファンタジア/イゴール・レヴィット

 ここでの「ファンタジア」は、バッハ、リスト、ベルク、ブゾーニという2世紀にもわたる作曲家の作品に独自の文脈を見出すための概念として、即興性や想像力、さらには哲学的、超越的な思索を意味する。ブゾーニの「対位法的幻想曲」はバッハへの眼差しから生まれ、ベルクはリストを参照し、リストは未来のベルクやブゾーニの音楽への暗示である。すでに「ハンマークラヴィーア」や「ゴルトベルク変奏曲」に取り組んできたレヴィットらしい、晦渋でありながら、高度に戦略的なコンセプト・アルバムである。異なる様式の音楽を的確に捉えた演奏も見事。じっくりと読み解く楽しみを味わいたい。
文:大津 聡
(ぶらあぼ2023年11月号より)

【information】
CD『ファンタジア/イゴール・レヴィット』

J.S.バッハ:エア、半音階的幻想曲とフーガ/リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調、影法師/ベルク:ピアノ曲 ロ短調、ピアノ・ソナタ/ブゾーニ:対位法的幻想曲、クリスマスの夜

イゴール・レヴィット(ピアノ)

ソニーミュージック
SICC 30728〜9(2枚組) ¥3960(税込)