大野和士(指揮) 東京都交響楽団

クラシック&モダンの隠れ名曲2本立て

大野和士 ©武藤 章
大野和士 ©武藤 章

 来春から大野和士が東京に拠点を移す。欧米トップランクの歌劇場やオーケストラで経験と実績を積んだ大野の新ポストは、都響の音楽監督。ファンではなくても期待が膨らむ。
 12月の定期は彼らの今後を占う大事な前哨戦となろう。クラシック・モダンの隠れ名曲2本立てという選曲も大野らしい。まずはバルトーク。彼らは数年前にもダイナミックな「管弦楽のための協奏曲」を聴かせてくれたが、「弦チェレ」もそれと並ぶバルトークの代表作。不安定な旋律が無限に絡まりあって始まり、民族的な躍動感と怜悧な思考が結びつきながら、熱狂的なクライマックスに至る。
 後半はフランツ・シュミットの交響曲第4番。シェーンベルクやストラヴィンスキーらの新音楽が台頭するさなかにあって、シュミットは後期ロマン派を受け継ぐ調性音楽を書き続けた。彼の最後の交響曲は、そうした西洋音楽の終わりを予見させるまがまがしさに満ちている。霧の中に響きわたるトランペット独奏に始まり、冬の日の曇天のようにどんよりと果てしなくさすらい続ける。時折日の光が差し込む他は、どこにも辿りつかないまま冒頭のトランペット主題によって閉じられる。
 実はこの2曲は1933年(シュミット)、36年(バルトーク)と、ヨーロッパに再び戦火の足音が迫りつつある時代に、オーストリア・ハンガリー文化圏の2人の作曲家によって書かれている。優れた芸術家はその鋭敏な嗅覚によって、時代の危機を作品に映し出す。戦慄と共に、私たちに深く問いかけてくる一夜になりそうだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)

第780回定期演奏会Aシリーズ
12/8(月)19:00 東京文化会館
第781回定期演奏会Bシリーズ
12/9(火)19:00 サントリーホール
問:都響ガイド03-3822-0727
http://www.tmso.or.jp