レジェンド・ピアニストと紡ぐ日本歌曲の世界
昨年6月にリリースしたジャズ・アレンジによる武満徹ソング・ブック『小さな空』が『レコード芸術』特選盤に選ばれるなど大好評を博した村松稔之。また10月には《ジュリオ・チェーザレ》のニレーノ役で新国立劇場にデビューを果たし、その実力をオペラ・ファンに印象づけた。現在もっとも注目を集めるカウンターテナーといっていいだろう。
そんな村松の2023年ソロ・リサイタルの舞台は、東京文化会館小ホール。これまで村松は、現代歌曲やモーツァルトの歌劇《フィガロの結婚》のケルビーノなど、従来のカウンターテナーのレパートリーにとどまらない、幅広いジャンルの音楽に挑戦し続けているが、今回のプログラムはそんな彼のさらなる進化を感じさせるものとなっている。リサイタルはまず、イタリア古典歌曲でスタート。次にドイツリートの傑作であるブラームス「4つの歌曲」が置かれているのが面白い。メインは後半の山田耕筰の連作歌曲「AIYANの歌」と團伊玖磨「5つの断章」だろう。この2作品はともに北原白秋の詩に作曲された歌曲集。ちなみに6月に発売予定の日本歌曲を集めた新しいCDにもこの2曲を収録するということで、まさに「村松稔之の“今”」を味わえる作品といえそうだ。ピアノは、デビュー・リサイタルからずっとタッグを組んできている小林道夫。卒寿を迎えた小林と若い村松との出会いがこれまでに生み出してきた化学反応を思うと、今回のリサイタルも大いに期待できそうだ。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2023年6月号より)
2023.6/17(土)14:00 東京文化会館(小)
問:カメラータ・トウキョウ03-5790-5560
http://www.camerata.co.jp
他公演
2023.5/28(日) 京都/青山音楽記念館 バロックザール(村松稔之カウンターテナーリサイタル事務局080-7744-1368)