二大巨匠メッツマッハーとテツラフが来日! 新日本フィルとリハーサル進行中

新ウィーン楽派の響きに浸る

 3月4日、6日の両日に迫った新日本フィル第647回定期演奏会では、新ウィーン楽派の3人の作曲家の作品がとりあげられる。ドイツ語で Zweite Wiener Schule と呼ばれるシェーンベルク、ウェーベルン、ベルクは、20世紀初頭のウィーンで常に時代の最先端を歩んでいた。長らく西洋音楽を支配してきた調性という土台が崩れ、無調音楽、十二音技法へと向かう大きな時代のうねりの中で、音楽はより屈折し、複雑さを増していく。しかし、今回は、いわば彼らがそこへと辿り着く過程を目の当たりにできる演奏会だ。

Ingo Metzmacher & New Japan Philharmonic

ウェーベルン:パッサカリア op.1(1908)
Webern: Passacaglia, op.1
ベルク:ヴァイオリン協奏曲《ある天使の思い出に》 (1935)
Berg: Violin Concerto (“Dem Andenken eines Engels”)
シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」 op.5(1902/03)
Schönberg: Pelleas und Melisande, op.5

 3月1日にリハーサル初日を迎えた新日本フィル。メッツマッハーは、2013〜15年に Conductor in Residence を務めており、今回は久しぶりの顔合わせとなったが、コンサートマスターを務める西江辰郎さんによれば、「リハーサル中にどんどんオーケストラのメンバーの感覚が鋭敏になっていく感じがしている」という。編集部が訪れたこの日は、シェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」の練習が進められていた。

 アンサンブル・モデルンの指揮者としても活躍するなど、20世紀音楽の優れた解釈者として知られるメッツマッハーは、金管セクションだけなどパーツを取り出して、わずかなニュアンスの違いや細かなアーティキュレーションを的確に指示していく。ドビュッシーのオペラやフォーレ、シベリウスの劇音楽と同じく、メーテルランクの戯曲に基づく大規模な4管編成による交響詩。シェーンベルクが無調に入る前の時代の大作だが、19世紀の色彩感をも残したサウンドで、物語の筋書きを追って登場人物たちが描かれていく。弦や木管の幻夢的な美しい旋律も印象的だ。

Tatsuo Nishie, violin

西江「さまざまな旋律が複雑に絡み合っている中で、非常に上手くバランスが取られて書かれている曲だと思います。R.シュトラウスやヴァーグナーとの繋がりも垣間見えるこの作品は、僕自身も、最初聴いたときは難解と感じる部分もありましたが、皆で練習を重ねるうちに聞こえるべきところが聞こえてくるようになりました。十二音技法、そして無調へと向かう片鱗が見えるこの時代ならではの音楽を、ぜひナマで体験していただきたいです。録音ではなかなか醸し出せない雰囲気や立体感がホールでは感じられると思います」

 ベルクのソロを務めるのは、古典から現代まで幅広いレパートリーに精通したクリスティアン・テツラフ。編集部がリハーサルを見学したこの日は、まだテツラフとのリハーサル開始前だったが、テツラフについて西江さんに印象をうかがうと、「今回お会いするのは初めてですが、デビュー後まもなくリリースしたヤナーチェクやラヴェルのCDを学生時代に聴いて、鮮烈なイメージを抱いていました。それからかなりの年数の経った今、舞台上で生で聴けるのは楽しみ」とのこと。ベルリン・ドイツ響とのベルクの録音では、年齢を重ね深みを増した、官能的かつ透明感のある音色で、起伏に富んだ協奏曲を鮮やかに聴かせてくれているだけに、期待も大きい。

Christian Tetzlaff

 オール新ウィーン楽派というなかなかチャレンジングな定期。「名前だけ聞くと思わず敬遠してしまうかもしれませんが、我々の時代に近い作曲家でもありますし、先入観を持たずに楽しんでいただけたら嬉しいです」と西江さん。「新しい音を恐れるな」とはメッツマッハーの著書のタイトルだが、むしろ今回は後期ロマン派の薫りを濃厚に漂わせた“新ウィーン楽派の夜明け”ともいうべきプログラム。ぜひ会場に足を運び、その響きの隅々まで体感してほしい。

取材・文:編集部

【Information】
新日本フィルハーモニー交響楽団 第647回 定期演奏会
〈トリフォニーホール・シリーズ〉
2023.3/4(土)14:00 すみだトリフォニーホール
〈サントリーホール・シリーズ〉
2023.3/6(月)19:00 サントリーホール

問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 
https://www.njp.or.jp