デビュー10周年を経て新たな境地をひらく
昨年、12歳でのデビューから10周年という節目を迎えた牛田智大。若くして注目されながらも真摯にピアノに向き合い、深い音楽を求め続けてきた彼が、ピアニストとしてまた新しい一歩を踏み出す。
今度の横須賀芸術劇場でのリサイタルで届けるのは、ドイツ、オーストリアの作曲家たちによる3つのピアノ・ソナタ。牛田は近年ショパンに集中的に取り組んできたが、その中で得たもの、体得したものも反映して新たに挑戦する、意欲的なプログラムだ。
モーツァルトのピアノ・ソナタ K.330で楽しみなのは、牛田持ち前の豊かな歌心が生かされたみずみずしい演奏。また彼がかねてレパートリーの中心に入れてみたいと思っていたというシューマンの作品より、ピアノ・ソナタ第1番では、ファンタジーにあふれ、のびのびと自由な音楽を聴かせてくれることに期待する。
一方、予想不能という意味で期待がふくらむのが、ブラームスのピアノ・ソナタ第3番。20歳の若きブラームスがシューマンを訪ねた地であるデュッセルドルフで書いた大作だ。輝かしく情熱的で、重く骨太な響きとしっかりとした構造を持つこの作品の世界に、23歳の牛田がどのように入り込み、そこで見出したものをステージで私たちと共有してくれるのか。
今その時が来たとばかりに披露されるこのドイツ、オーストリア・プログラムで牛田が開く新しい扉の向こうには、一体何があるのだろうか。コンサートホールで聴き届けたい。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2023年3月号より)
2023.3/21(火・祝)15:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
https://www.yokosuka-arts.or.jp