京都コンサートホールが2023年度主催事業ラインアップを発表

取材・文:桒田萌

 1月26日、京都コンサートホールが2023年度主催事業ラインアップの記者発表を実施した。同ホール館長の広上淳一およびプロデューサーの高野裕子が登壇し、ラインアップのコンセプトや聴きどころについて語った。

 2023年度のテーマは、「京都・きょうと・KYOTO」。文化庁京都移転(3月27日業務開始)や、京都市立芸術大学の新キャンパス移転(10月1日開校)といった街の節目に着目して設定された。高野は「文化庁の移転で、文化と観光の相乗効果によって世界への発信力が高まり、また京都市立芸術大学が京都の玄関口である京都駅周辺に移転すれば、文化芸術によって街全体が活気付く」とし、「こうした局面を見据え、大人も子どもも、そして外国の方まで、どんな人でも音楽を楽しめる1年にしたい。クラシック音楽を通して街全体を元気づけ、あらゆる方に『京都は素晴らしい場所だな』と感じていただきたい」と企画意図を語る。

左:広上淳一 右:高野裕子(c) Moe Kuwada

 「どんな人でも楽しめるように」という狙いの通り、2023年度はバラエティに富んだ企画が並ぶラインアップとなった。まず、主催事業の目玉となる3公演を紹介。
 1つ目は、「The Real Chopin × 18世紀オーケストラ」(2024/3/9)。長らく欧州古楽界を牽引してきた「18世紀オーケストラ」が11年ぶりに来日し、ショパン存命中の1843年に製作されたプレイエル・ピアノで2つのピアノ協奏曲が披露される。独奏は、第16回ショパン国際ピアノコンクールを制したユリアンナ・アヴデーエワと、第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール覇者のトマシュ・リッテル。往時の響きを彷彿とさせるサウンドが味わえる貴重なステージとなりそうだ。

 2つ目は、京都市交響楽団とのプロジェクト、ワーグナーの《ニーベルングの指環》(11/18)。上演に4日間および15時間を要する楽劇を、指揮者の沼尻竜典が演奏会用形式に編曲して上演する。沼尻がこれまでワーグナー作品に積極的に取り組んできたことに触れ、広上は「沼尻さんは、日本を代表するワーグナーのスペシャリスト。《ニーベルングの指環》のような大作は、深く理解していなければ編纂などできません。彼の視点で作品の魅力を“おいしいとこどり”してくれるはず」と期待を込める。ソリストは、ステファニー・ミュター(ソプラノ)、青山貴(バリトン)。

 3つ目は、今年で27回目を迎える「京都の秋 音楽祭」。開会記念コンサート(9/10)では広上が指揮をとり、2021年に京都市交響楽団の東京公演で好評を博したマーラーの交響曲第5番でオープニングを飾る。また、仙台国際音楽コンクール優勝以来、ソロや室内楽で多く実績を残しているピアニストの津田裕也を迎え、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番も聴かせてくれる。「古巣である京響との歩みを辿る想いで、愛のあるサウンドをお届けしたい」(広上)。

 同じく大ホールでは、共催事業として、関西のオーケストラ・ファンなら聴き逃せない、ハンブルク交響楽団(7/17、指揮:シルヴァン・カンブルラン)とロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(11/5、指揮:ファビオ・ルイージ)の来日公演が実現。また、毎年好評の「オムロン パイプオルガンコンサートシリーズ」(出演:福本茉莉=9/30、石丸由佳=2024.2/23)や、ワーグナー作品やベートーヴェンの「第九」を取り上げる「第12回 関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル」(9/16)、10歳から22歳までのメンバーで構成される京都市ジュニアオーケストラの第19回コンサート(24.1/28)など、若い音楽家たちの貴重な実践の場を提供する恒例の企画も実施予定だ。

 一方、アンサブルホールムラタでも、多角的に音楽が楽しめる公演が目白押し。「KCH的クラシック音楽のススメ」では、ジャズ・ピアニストの小曽根真がワークショップ&スペシャルライブを開催(5/13)。また、プーランク没後60年を記念し、フランスの名ピアニスト、パスカル・ロジェとウインドクインテット・ソノリテがタッグを組む(10/21)。ギタリストの徳永真一郎やピアニストの吉見友貴、ヴィオリストの田原綾子&ピアニストの實川風のデュオ、トランペッターの藤井虹太郎ら若手演奏家がランチタイムを彩る「京都北山マチネ・シリーズ」、ラデク・バボラーク(ホルン)ら海外アーティストによるシリーズ「北山クラシック倶楽部」なども目を離せない。12月には、ホールのClub会員と京響友の会限定で、ロン=ティボー国際ピアノコンクールを制し話題のピアニスト亀井聖矢のリサイタルが予定されているのも注目。

左:広上淳一 右:高野裕子(c) Moe Kuwada

 このほか、同ホールが実施してきたアウトリーチ事業の登録アーティストによるリサイタルも実施。2022年度より、2名の音楽家が地域の学校や施設を訪れてアウトリーチ活動を行ってきたが、彼らの活動は2023年度で最終年度を迎える。集大成となる演奏に注目したい。

 多彩なアーティストとプログラムが出揃った2023年度の主催事業。さらに、文化庁京都移転および京都市立芸術大学の新キャンパス移転に伴う特別事業も行われる予定で、詳細は後日発表される。高野は「今のところ2022年度の主催事業はすべて実施し、3年ぶりに海外オーケストラの来日公演も開催することができた。この上昇気流に乗って、2023年度も着実に公演を実施していく」と意気込んだ。

京都コンサートホール
https://www.kyotoconcerthall.org