世界を舞台に活躍する日本人奏者が東京春祭2023に集結

個性あふれる室内楽プログラム

文:小室敬幸

 東京・春・音楽祭といえば、ムーティやヤノフスキがオペラを振る大きな公演にどうしても注目が集まりがちだが、室内楽公演の充実ぶりにも毎年、目を見張るものがある。開催直前には完売していることが珍しくなく、席数の少ない小ホール規模の公演や、博物館・美術館でのミュージアム・コンサートは早めのチケット確保が肝心といえる。

 今回のラインナップで真っ先に推したいのは、海外を拠点にして活躍する日本人奏者だ。早々に完売必至となりそうなのは、樫本大進率いる「ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽」だが、もっと若いが今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍する1990年代生まれのヴァイオリニストたちにも注目していただきたい。

青木尚佳 (C)井村重人
金川真弓(C)Kaupo Kikkas
周防亮介(C)JUNiCHIRO MATSUO

 2021年春、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターに正式就任したというニュースが話題となった青木尚佳(なおか)は、オケの同僚である第1首席ヴィオリストのジャノ・リスボアと、ミュンヘン音楽大学教授であるチェリストのウェン=シン・ヤンを連れ立って、演奏機会の少ないモーツァルトの隠れた傑作を聴かせてくれる。チェロとの二重奏となるコダーイでは、ヴィルトゥオーゾとしての側面もみせてくれるに違いない。

 近年ソリストとして、日本各地のオケで燃焼度の極めて高い独奏を披露し、聴衆を魅了している金川真弓はロベルト・シューマンの名作に挑む。年齢こそまだ30代半ばだがすでに中堅の風格漂うチェリスト横坂源と、2019年にロン・ティボー・クレスパン国際コンクールで優勝してから華々しい活躍を続けるピアニスト三浦謙司とともに、幻想小曲集と三重奏曲第1番を。そこにN響首席のヴィオリスト佐々木亮らが加わる、人気の高いピアノ五重奏曲も楽しみだ。

 美音を徹底して追求しながらも、コンサートホールの隅々まで音が届くかのようなスケールの大きな演奏を聴かせる周防亮介は、未来の巨匠候補だ。年末年始にはパガニーニのカプリースなどのCDリリースが続くことからも分かるように、周防が現在最も力を注いでいるのが「無伴奏」。2日に分けて、この領域の最高峰であるバッハに挑む。会場となる東京国立博物館 法隆寺宝物館エントランスホールはモダンな雰囲気で、バッハの音楽に集中するにはぴったりだ。

橋本杏奈
小山裕幾

 そして弦だけでなく、管楽器奏者の活躍も見逃せない。まず挙げたいのは英国を拠点に活躍するクラリネット奏者の橋本杏奈だ。まだまだあどけない雰囲気ゆえに誤解してしまうかもしれないが、名奏者マイケル・コリンズの高弟として紹介され、日本にソロデビューしてからもう15年以上も経つ。どんな難曲であろうと顔色ひとつ変えずにやすやすと吹きこなしてしまう技量に加え、表層的な流麗さを切り捨てたかのような質実剛健な音楽作りが彼女の魅力だ。普段聴く機会の少ない隠れた名曲を集めたこだわりのプログラムには、非常に惹かれるものがある。

 エマニュエル・パユら、世界の第一線で活躍するフルート奏者が歴代の入賞者に名を連ねる神戸国際フルートコンクールにおいて、2005年に日本人として初めて第1位を受賞したのが小山裕幾である。14年からはフィンランド放送交響楽団の首席奏者、17年からはシベリウス・アカデミーの講師を務めており、今回のプログラムでも日本とフィンランドの作曲家による20世紀後半以降の作品が集められた。とはいえ、いわゆる無調的な作品は少なく、小山の優しくも陰影に富んだ音色によって、美しく色彩的なハーモニーや活き活きとしたリズムが堪能できる楽曲ばかりである。

吉井瑞穂 (C)MarcoBorggreve
福川伸陽 (C)大津智之
川口成彦 (C)Fumitaka Saito

 管楽器といえば、2000年からおよそ20年にわたってマーラー室内管弦楽団の首席奏者を務めてきたオーボエ奏者の吉井瑞穂(現在は鎌倉市在住)と、今や日本を代表するクァルテットとなったウェールズ弦楽四重奏団の共演も聴き逃がせない。モーツァルト、フィンジ、武満徹といったバラエティに富んだ選曲で、刺激的な公演となるに違いない。

 ホルン奏者の福川伸陽も国内在住だが、言わずもがなその才能はムーティ、ルイージ、パーヴォ・ヤルヴィといった一流指揮者から激賞されており、日本が世界に誇る音楽家だ。自らが発起人となったレ・ヴァン・ロマンティーク・トウキョウを率いて登場。広く知られた作曲家のみならず、クヴァンツのホルン協奏曲なども愉悦感たっぷりに聴かせてくれるはず。しかし、なんといっても注目はプログラム最後の「ブランデンブルク協奏曲第2番」。華やかなトランペットの高音が異様に難しい作品として知られるが、演奏者一覧にはトランペット奏者が不在!? なんと福川がホルンで吹くのだという・・・・・・これも絶対に聴き逃がせない!

 古楽といえば、ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第2位となり一躍有名になった川口成彦による、ヨハン・セバスティアンだけでない3人のバッハ(息子のC.P.E.バッハとJ.C.バッハ)によるプログラムも面白そうだ。多彩なプログラムが揃っているので、クラシック音楽好きであれば、何かしらか興味が惹かれるものがきっと見つかるはず。年始にじっくりと、全プログラムをチェックすることをオススメしたい。


Information

ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽
2023.3/18(土)16:00 東京文化会館(小)
●出演
ヴァイオリン:樫本大進
ヴィオラ:アミハイ・グロス
チェロ:オラフ・マニンガー
ピアノ:オハッド・ベン=アリ
●曲目
ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲 変ホ長調 WoO.36-1
フォーレ:ピアノ四重奏曲 第2番 ト短調 op.45
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第2番 イ長調 op.26
●料金(税込)
S¥9,000 A¥7,500
U-25¥2,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.59 周防亮介(ヴァイオリン)
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ全曲演奏会 第一夜
2023.3/22(水)19:00 東京国立博物館 法隆寺宝物館エントランスホール

●出演
ヴァイオリン:周防亮介
●曲目
J.S.バッハ:
 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第1番 ト短調 BWV1001
 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第1番 ロ短調 BWV1002
 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005
●料金(税込)
¥4,000
●発売日
2023.1/22(日)

ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.60 周防亮介(ヴァイオリン)
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ全曲演奏会 第二夜
2023.3/23(木)19:00 東京国立博物館 法隆寺宝物館エントランスホール
●出演
ヴァイオリン:周防亮介
●曲目
J.S.バッハ:
 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006
 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
●料金(税込)
¥4,000
●発売日
2023.1/22(日)

福川伸陽(ホルン)&古楽の仲間たち
2023.3/24(金)19:00 東京文化会館(小)

●出演
レ・ヴァン・ロマンティーク・トウキョウ
 バロック・ホルン:福川伸陽
 バロック・ヴァイオリン:高田あずみ、荒木優子、丸山韶
 バロック・ヴィオラ:成田寛
 バロック・チェロ:上村文乃
 コントラバス:今野京
 バロック・オーボエ:三宮正満
 バロック・ファゴット:村上由紀子
 リコーダー:太田光子
 フォルテピアノ:川口成彦
●曲目
ヘンデル:付随音楽《アルチェステ》HWV45 第1幕 より グラン・アントレ
テレマン:リコーダー、ホルン、通奏低音のための協奏曲 ヘ長調 TWV42:F14
C.H.グラウン:ホルン、ヴァイオリン、通奏低音のためのトリオ・ソナタ ニ長調
ボワモルティエ:5声の協奏曲 ホ短調 op.37-6
クヴァンツ:ホルン協奏曲 変ホ長調
J.F.ファッシュ:四重奏曲 ヘ長調 FaWV N:F3
ヴィヴァルディ:リコーダー、オーボエ、ヴァイオリン、ファゴット、通奏低音のための協奏曲 ト短調 RV107
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV1047
※当初予定しておりました曲目より変更となりました。
●料金(税込)
S¥5,500 A¥4,000
U-25¥2,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

シューマンの室内楽
2023.3/28(火)19:00 東京文化会館(小)
●出演
ヴァイオリン:金川真弓
ヴィオラ:佐々木亮
チェロ:横坂源
ピアノ:三浦謙司
/他
●曲目
シューマン:
 幻想小曲集 op.88
 ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 op.63
 ピアノ五重奏曲 変ホ長調 op.44
●料金(税込)
S¥5,500 A¥4,000
U-25¥2,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)
●発売日
2023.1/22(日)

吉井瑞穂(オーボエ)&ウェールズ弦楽四重奏団
2023.4/2(日)15:00 東京文化会館(小)
●出演
オーボエ:吉井瑞穂
ウェールズ弦楽四重奏団
 ヴァイオリン:﨑谷直人、三原久遠
 ヴィオラ:横溝耕一
 チェロ:富岡廉太郎
●曲目
テレマン:《無伴奏オーボエのための12の幻想曲》より 第9番 ホ長調
モーツァルト:オーボエ四重奏曲 ヘ長調 K.370
ハイドン:弦楽四重奏曲 第1番 変ロ長調 op.1-1 HobIII:1《狩》
フィンジ:間奏曲 イ短調 op.21
武満 徹:アントゥル=タン
モーツァルト:オーボエ五重奏曲 ハ短調 K.406a
●料金(税込)
S¥5,500 A¥4,000
U-25¥2,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.62 川口成彦(フォルテピアノ)
2023.4/3(月)19:00 東京国立博物館 平成館ラウンジ
●出演
フォルテピアノ/タンゲンテンフリューゲル:川口成彦
●曲目
J.S.バッハ:
 前奏曲とフーガ イ短調 BWV895
 イギリス組曲 第1番 イ長調 BWV806
C.P.E.バッハ:《ヴュルテンベルク・ソナタ集》より 第1番 イ短調 Wq.49/1, H.30
J.S.バッハ:
 幻想曲とイミタツィオーネ ロ短調 BWV563
 協奏曲 ロ短調 BWV979(トレッリのヴァイオリン協奏曲にもとづく)
 フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816
J.C.バッハ:ソナタ ハ短調 op.5-6
●料金(税込)
¥4,000
●発売日
2023.1/22(日)

ミュージアム・コンサート
橋本杏奈(クラリネット)
2023.4/4(火)19:00 国立科学博物館 地球館2階常設展示室
●出演
クラリネット:橋本杏奈
ピアノ:髙木美来
●曲目
【旅する音楽】
C.V.スタンフォード:3つの間奏曲 op.13
R.サミュエル:…嘆かわしき喜びも
C.アリュー:カプリッチョ
J.マクミラン:ギャロウェイより
ヒンデミット:クラリネット・ソナタ
M.マンガーニ:《ヴェルディアーナ》〜ヴェルディのオペラ主題による幻想曲
F.プライス:礼拝
B.コヴァーチ:ショレム・アレイヘム、ロブ・ファイドマン!
J.ホロヴィッツ:クラリネットとピアノのためのソナチネ
●料金(税込)
¥4,000
●発売日
2023.1/22(日)

小山裕幾(フルート)
2023.4/8(土)14:00 旧東京音楽学校奏楽堂

●出演
フルート:小山裕幾
ピアノ:内門卓也
●曲目
【フィンランド放送交響楽団首席フルート奏者による “日本とフィンランドのフルート作品を集めて”】
 ロッタ・ヴェンナコスキ:雰囲気から
 ユッカ=ペッカ・レヘト:ノクターン
 福島和夫:冥
 吉松 隆:デジタルバード組曲
 三浦真理:想い出は銀の笛 より
 細川俊夫: 線Ⅰ
 ユッカ=ペッカ・レへト:ソナタ
●料金(税込)
¥4,500
U-25¥2,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

青木尚佳(ヴァイオリン)、ジャノ・リスボア(ヴィオラ)、ウェン=シン・ヤン(チェロ)
2023.4/13(木)19:00 東京文化会館(小)

●出演
ヴァイオリン:青木尚佳
ヴィオラ:ジャノ・リスボア
チェロ:ウェン=シン・ヤン
●曲目
ドホナーニ:セレナーデ ハ長調 op.10
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 op.7
モーツァルト:ディヴェルティメント 変ホ長調 K.563
●料金(税込)
S¥6,000 A¥4,500
U-25¥2,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

【来場チケット販売窓口】
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●東京文化会館チケットサービス(電話・窓口)
TEL:03-5685-0650(オペレーター)


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東京・春・音楽祭サポートデスク03-6221-2016