カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

次期首席指揮者が描く民族音楽に魅せられた作曲家たち

(c)Angie Kremer

 数年前、初めてカーチュン・ウォンの指揮に接し、リズム感、フレッシュな音運びに感心したが、その後すぐに日本フィルの首席客演指揮者に任ぜられ、2022年5月には来秋からの首席指揮者就任も発表された。出世街道を駆けのぼったのである。

 シンガポール出身の36歳。中国・インド・マレー・西洋と、様々な文化の混在する環境で育ったカーチュンが興味を持った作曲家が、西洋的なるものに日本の魂を込めようとした早坂文雄、伊福部昭や芥川也寸志あたりだったというのが面白い。

 伊福部作品については22年5月の日本フィル定期の「リトミカ・オスティナータ」のパワフルな演奏が話題を呼んだが、早くも第2弾がお目見えする。代表作「シンフォニア・タプカーラ」だ。タプカーラはアイヌ語で“足を踏みしめる舞”を意味し、まさに民族共生を地でいくような作品である。

 後半は東欧の民謡の研究に情熱を傾けたバルトーク最晩年の代表作「管弦楽のための協奏曲」。リズムの工夫やトレードマークとも言うべき夜想的な楽章も併せもち、聴きどころ満載、またオーケストラの各奏者に名人芸を求める難曲でもある。失われていくフォークの精神のダイナミズムを、コスモポリタニスト、カーチュンはどう表現するのだろうか。

 なお、カーチュンは他にも「アランフェス協奏曲」(ギター:村治佳織)とベートーヴェン「英雄」(1/14さいたま定期、1/15名曲コンサート)、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(独奏:小菅優)と交響曲第2番(1/28横浜定期、1/29芸劇シリーズ)の2つのプログラムを振る。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年1月号より)

第747回 東京定期演奏会〈秋季〉【配信あり】 
2023.1/20(金)19:00、1/21(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
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