8年以上にわたるパリ留学を通じ、務川慧悟が深く研究してきたラヴェルの、ピアノ作品全曲録音。冒頭の「古風なメヌエット」から、柔らかくしかし心地よい冷たさのある音が広がる。「鏡」では緻密に書かれた音楽の背後にうごめくラヴェルの多様な感情を見せてくれる。緊張感と解放のコントラストが鮮やかな「夜のガスパール」、1曲ごとに異なる像や景色を浮かび上がらせる「クープランの墓」など、アルバム全体が、ラヴェルの人間らしさや繊細さに寄り添う親密さを湛えている。ブックレットの務川による文章も読み応えがあり、音に込められたものの理解を助ける。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2023年1月号より)
【information】
CD『ラヴェル:ピアノ作品全集/務川慧悟』
ラヴェル:古風なメヌエット、亡き王女のためのパヴァーヌ、水の戯れ、ソナチネ、鏡、夜のガスパール、ハイドンの名によるメヌエット、高雅で感傷的なワルツ、ボロディン風に、シャブリエ風に、前奏曲、クープランの墓
務川慧悟(ピアノ)
NOVA Record
NR-02203(2枚組) ¥4400(税込)