マクシム・エメリャニチェフ 3種鍵盤 モーツァルト・リサイタル

才人が様々な鍵盤楽器で描くモーツァルトの短調作品+α

(c)Andrej Grilc

 マクシム・エメリャニチェフは天才肌の音楽家だ。でも、けっして目立ちたがりやではない。鍵盤奏者としても、弾き振りする時も、指揮台に立つ時も、音楽の中にある躍動感や律動、旋律の美しさや和声進行のおもしろさを最大限引き出すことに全身全霊を傾け、一緒に演奏する演奏家たちも聴衆も巻き込んでいく。筆者が彼の才能に最初に注目した英国ロイヤル・オペラでの《アグリッピーナ》(2019年)がまさしくそうした体験だった。

 ロシアのニジニ・ノヴロゴロド生まれ。地元とモスクワで指揮、ピアノ、フォルテピアノ、チェンバロなどを学んだ彼がヨーロッパでブレイクしたのは、まずはチェンバロ弾きとしてであった。2013年にイタリアの古楽アンサンブル、イル・ポモドーロの首席指揮者に抜擢。またクルレンツィスのモーツァルト《フィガロの結婚》の録音にもコンティヌオ奏者として光彩を放っている。その後、徐々にモダンのオーケストラにも指揮者として客演するようになり、2019年、英国の名門スコットランド室内管が18年の初共演後、彼を首席指揮者に任命したことで話題を呼んだ。

 そんな多彩でイマジネーションにあふれる彼が、モーツァルトの幻想曲とソナタなどをチェンバロ、フォルテピアノ、ピアノの3台で弾き分けるリサイタルを紀尾井ホールで開く。モーツァルトが愛したヴァルターの繊細な音色のフォルテピアノ、幼い頃に親しんだであろうジャーマン・モデルのチェンバロ、そして現代のスタインウェイというタッチも機構も異なる楽器でどのようにモーツァルトを響かせるのか。ヨーロッパでもなかなか聴けない好企画をぜひお聴き逃しなく!
文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2022年9月号より)

2022.11/6(日)14:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp 
https://kioihall.jp