ラスト・シーズンを彩る、リズムの饗宴
ピエタリ・インキネンが、2022/23シーズンをもって日本フィルの首席指揮者のポストを離れる。09年から首席客演指揮者、16年から首席指揮者として、一方の柱ラザレフや日本勢とはテイストの異なる好演を数多く繰り広げた彼の音楽をレギュラーで聴けるのは、ひとまずこれが最後。残る公演はぜひ耳に焼き付けておきたい。
インキネンの功績のひとつが、ワーグナー、ブラームス、ブルックナーといった独墺もので日本フィルの新たなポテンシャルを引き出したこと。フィンランド生まれの彼だが、ザールブリュッケンの楽団のシェフやドイツ各地の一流楽団および歌劇場への客演で実績を重ね、バイロイト音楽祭の《指環》の指揮者にも指名されるなど、独墺圏での活躍は際立っている。その持ち味が最大限に生きるレパートリーといえば、ベートーヴェンの交響曲をおいて他にない。そこで彼は、日本フィルにおける終盤のプロジェクトにその全曲演奏を掲げ、現在第6番まで到達した。
そして今年10月、第7番&第8番を聴かせる。ダイナミックな第7番と小ぶりで典雅な第8番は、相前後して書かれた両輪の如き作品。リズムが弾む快活な音楽で、緩徐楽章を持たない等の共通点もある。インキネンはこれまで、自然な推進力と活力を持った、明朗で温かみのあるベートーヴェンを奏でてきただけに、両曲はジャスト・フィットしそうだし、なかでも楽聖が傑作と自負した第8番(インキネンは「ジョーク」だと話す)の表現が実に楽しみだ。しかも彼が22年の東京定期演奏会に登場するのは本公演のみ。ゆえにむろん聴き逃せない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年9月号より)
第744回 東京定期演奏会〈秋季〉【配信あり】
2022.10/21(金)19:00、10/22(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp