充実のコンビで味わうブルッフ&ブルックナーの旋律美
日本フィルハーモニー交響楽団といえば、首席客演指揮者カーチュン・ウォンを2023年9月より首席指揮者に迎えるという発表が話題になったばかり。彼が登壇した5月定期では伊福部昭とマーラーを刷新した解釈で聴かせて、オーケストラからも前向きな感情が発散されていた。
その日本フィルが好調を維持するもう一つの理由が、「フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)」という地位にある広上淳一の存在だろう。楽団のモチベーションを高め、濃密な演奏を引き出すマエストロで、以前から同楽団と良好な関係を維持していたが、この2年近くの数々の共演で繋がりがより深まっている。その例のひとつが、昨年6月の定期で東京では機会のなかった「広上のブルックナー」が解禁されたことである。交響曲第6番を取り上げ、弦楽セクションの人数を刈り込み、作曲者のイメージを洗い直すユニークな姿を構築したのである。今年も引き続き日本フィルとのブルックナー、それも人気作の第7番(ハース版)ということで、独特の旋律美と豊麗な音響をどう表現するのか。広上の新境地に期待したい。
ヴァイオリン独奏に米元響子を迎える、ブルッフの名曲「スコットランド幻想曲」も楽しみだ。民謡の旋律と繊細なハーモニーが郷愁を誘い、殊に著名なメロディがしみじみと歌われる第3部は目頭が熱くなるはず。近年充実を深める米元の豊かで繊細な音で聴けるのも嬉しい。ハープの響きも美しい本作で、広上と米元の協演に浸る30分、なによりの癒しの時間になるだろう。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年7月号より)
第742回 東京定期演奏会〈春季〉【配信あり】
2022.7/8(金)19:00、7/9(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp