昆虫を愛する風変わりな姫君を描くユニークな舞台作品
虫を愛でることが好きな姫君は、周りの人々に気味悪がられても気にしない。「お年頃の娘がやるべき決まり事」にも無頓着だ。『虫めづる姫君』は平安時代に書かれた『堤中納言物語』の中の一遍だが、じつに現代のジェンダー問題などに直結するテーマだといえる。これを「クラシック音楽と舞踏のコラボレーション」として舞台化するのが「シアター・デビュー・プログラム」である。青少年と劇場をつなぐため東京文化会館が2021年から始めたものだ。
演出・振付とともに、姫君も演じるのは我妻恵美子。我妻は、世界的に高い評価を得ている舞踏カンパニー・大駱駝艦で長年トップダンサーを務め、自らも作品を発表してきた実績がある。ほかに強烈な身体性を誇る舞踏ダンサー(塩谷智司、阿目虎南)が登場し、さまざまな虫の動きから人々の内面まで、幅広く表現していく。
音楽監督は、様々なジャンルとのコラボレーションで活躍する作曲家・加藤昌則。管楽器と弦楽器と自らのピアノで構成し、“語り部”でもあるソプラノの三宅理恵とともに耳慣れた古今のクラシック曲ほか「手まり歌」などオリジナル曲も披露する。これは「観客が、姫君同様に理不尽な目に遭ったときに支えとなってくれるような歌」(加藤)だそうだ。
世間に流されて自分らしさを見失うのではない。といって自分の殻に閉じこもって孤立してしまうのでもない。我妻は「自分を大切にしつつ外の世界に触れていくことで、姫君の世界がゆっくり豊かに広がっていく様を、大人も子どもも一緒に体験してほしい」という。楽しい舞台になりそうである。
文:乗越たかお
(ぶらあぼ2022年2月号より)
2022.2/5(土)、2/6(日)各日15:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp