お正月といえば日本酒! 呑む文筆家・唎酒師がオススメする逸品!

構成・写真・文=山内聖子

 日本酒は冬が本番。冬が到来すると、いつも以上に日本酒を愛でる季節が来たとそわそわ落ち着かなくなります。なぜなら、今は新酒という新しく造ったばかりの日本酒が各蔵から続々と発売される季節。「今年も無事に酒ができました」という酒蔵からの便りであり、つくり手の決意表明でもある新酒は、冬が最盛期なのでうかうかしているうちに旬を取り逃がしてしまう(加熱処理をしていない生酒がほとんどなので品質も変わりやすい)ため、とにかく片っ端から呑まなきゃ勿体ない。

 しかも、新酒のように冷酒で飲むタイプだけではなく、凍える寒さの冬にはこたえられない燗酒でおいしい日本酒も市場をにぎわせるため、冬は一年でもっとも日本酒のラインナップが色めき立つ季節でもあります。

 というわけで、筆者の日本酒消費量はうなぎのぼりに増え、日本酒を抜く暇がない今の時期なのですが、なかでも、正月休みにぜひ呑んでほしいおすすめの日本酒を紹介したいと思います。

🍶獺祭 純米大吟醸 スパークリング45(山口県・旭酒造)

 昨年、日本センチュリー交響楽団の理事長に“旭酒造”の桜井博志会長が就任し、クラシック業界で話題となった「獺祭」ですが、数あるラインナップの中で筆者が一押しなのがスパークリング日本酒。お米の成分を含んだうすにごりの天然発泡タイプで、シュワっとキックが強めの泡感と、豊かな甘みのバランスが秀逸。はじめは透明な上澄みを飲み、徐々にお米の成分を混ぜて味の違いを楽しむのもいい。まずは、この日本酒で乾杯!

🍶花の香 桜花 純米大吟醸 新酒搾りたて生原酒(熊本県・花の香酒造)

 先代の酒質を180度変えて売れる旨い酒を造るため、「獺祭」の門を叩き酒造りの修行した経験を持つ蔵元がつくる日本酒。熊本の新星として、ここ数年、注目を集めている銘柄です。なかでも“桜花”が筆者のお気に入り。ほのかに小花のような香りがあり、クリアで清涼感がある酒質。新酒らしく、若々しい青竹のような風味も。ひとくちで、気分が華やぐ一本です。

🍶仙禽 初槽 あらばしり 生酒(栃木県・株式会社せんきん)

 原料はすべて、仕込み水(地下水)と同じ水脈上にある田んぼで育つ酒米を使用している「仙禽」も、今の時期しか味わえない新酒をぜひ。“初槽”は、搾った酒が出てくる槽口から直接、酒を汲んだ限定品。口開けは微発泡でピチピチと弾ける口当たりが楽しい。米の甘やかな匂いを感じますが、酒質はドライでタイトです。生命感にあふれた伸びやかな余韻も美しい。スパイシーなつまみと合わせると、奥に隠れていた甘みが顔を出します。また、少し温度が上がると、端正な酸味がじわじわ滲み出てくるなど、酒の表情が豊かなところも魅力的。

🍶桂泉 手造り特別純米酒 こんこん(宮城県・はさまや酒造店)

 シンガソングライターで音楽プロデューサー、そして蔵元・蔵人でもある、かの香織さんの実家の造り酒屋が手がける日本酒。キュートな酸味が特徴で、ハーブのような青い風味も。透明感があり、清々しい酒質です。大葉やバジルなど、香りの強い葉野菜と好相性。和食だけではなく、イタリアンなど素材を生かした洋食にも合いそう。

🍶白隠正宗 誉富士 純米酒(静岡県・高嶋酒造)

 今も現役のDJをつとめるほどの音楽好きで、「造るより飲むのが好き」と豪語する飲んべえ蔵元が造る日本酒。今の時期には珍しい新酒の火入れ(加熱殺菌)タイプで、シャープな口当たりが印象的です。後味はすっきりとドライで、いくらでも飲めそうな軽い酒質。少しずつやわらかい甘みが出てくるので、じっくりゆっくり味わいたくなる。冷酒で飲んだ後は、ぜひとも燗酒に。特に、刺身や干物、煮魚、貝の酒蒸しなど、魚介類の料理にとっても合います。

🍶群馬泉 超特撰純米&山廃酛本醸造酒(群馬県・島岡酒造)

 冬にこの酒がないとはじまらないと思うほど、熱燗で旨い2本。天然の微生物である蔵に棲みつく乳酸菌を生かした、昔ながらの山廃造りの酒です。 “超特撰純米”は、枯れた香りと厚みのある旨みが特徴でスケールの大きい、奥行きのある味わい。一方、“本醸造酒”は、さらにドライでキリッとしています。いずれも切れ味がよく、家庭で食べるような醤油や味噌、酢などを使った惣菜にぴったりで、だらだらといくらでも飲んでしまう酒質です。熱々に燗をしたときの旨さったらもう。心にしみじみ沁みてくる味わいです。この酒は、気温の変化にも負けない骨太な酒の上に、熟成して旨さが伸びるタイプなので、一升瓶で買って常備したい日本酒です。

🍶瑞祥 黒松剣菱(兵庫県・剣菱酒造)

 山廃造りの日本酒の最高峰。兵庫県産の山田錦を使い、5年以上熟成させた酒をブレンドした、年に一度しか発売しない冬季限定の日本酒です。ドライフルーツのような甘い香りが漂い、微妙に質が異なるさまざまな甘みの層にうっとり。美しい三重奏を聴いているような繊細に深い酒質で、余韻は細く長い。舐めるように味わっていると、少しずつ甘みが開いていきます。まさに甘露! とため息が出る逸品。一人でも二人でも心静かに、時間をかけて味わってほしい日本酒です。

【Profile】
山内聖子

呑む文筆家・唎酒師
仕事も趣味もお酒の文筆家。日々あらゆる酒を楽しんでいるが、とりわけ日本酒に傾倒する。18年以上前からひたすら日本酒を飲み続けて全国の酒蔵や酒場を訪ね、各週刊誌や「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。連載に『山内聖子の偏愛する日本酒とつまみの話』(さんたつby「散歩の達人」)。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)があり、現在、3作目の日本酒本を執筆中。