ケーナで新風を吹き込む異次元のアーティスト登場
バッハと現代をつなぐプログラミングでこれからの若手の演奏に耳を傾ける「B→C」シリーズに、一風変わった奏者が登場する。ケーナの岩川光である。
岩川は音楽とは無縁の家庭に育ったが、6歳の時「コンドルは飛んでいく」の音色に惹かれ、ペルーの行商人から楽器を買ったのがこの道に入るきっかけになった。ボリビアやアルゼンチンで演奏の伝統を直接身に付けて実力を蓄え、バンドネオンやギターの巨匠たちと南米各地でコラボするようになった。
岩川にはリコーダー奏者としての経験もあり、民族音楽の枠を超えて、バロックから現代ものまでジャンルの横断にも意欲的だ。古楽団体との共演やバッハのアルバム・リリースなど、ケーナの可能性の拡張にも積極的に取り組み、そうしたキャリアがB→C出演へとつながったのだろう。
経歴を反映してプログラムも多彩である。バッハ、ビーバーらバロック、ドビュッシー、ブリテンといったモダン、オペラシティゆかりの武満徹、そして岩川の親友でもある二人のアルゼンチン作曲家への委嘱新作、さらには自作のハチャ・ケーナ(通常のケーナよりも音域が低い)による自作自演まで幅広い。締めはピアソラ。やはり南米にはこの人が似合う。
ケーナは木製の管に切り込みを入れたエアリード型の楽器で、息を吹き込んで空気を震わせる。歴史的には異界との媒介を果たしてきた楽器であり、岩川も大地と直接つながる感覚を覚えるという。現代社会では失われてしまったヴァイタルな感性で、異端児がクラシックに新たな命を吹き込む。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年1月号より)
2022.1/18(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp