ベルリンを拠点に活動する久末航のデビュー・アルバム。豊富なコンクール実績を誇る彼だが、高校卒業後に渡欧したためか日本での知名度はさほど高くない。その点、本作は真価を知らしめるに相応しい好内容といえる。まずは、まろやかで美しい音色と精妙極まりないタッチに魅了される。リサイタルを意識したプログラムも絶妙で、明晰かつ情熱的なメンデルスゾーン、愉悦感を湛えたスカルラッティ、神秘的に変幻するメシアン、精緻で鮮烈なラヴェル、チャーミングなアンコールの「無言歌」…と各曲も全体の流れも魅力十分。まさに上質のリサイタルを思わせる一枚だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年1月号より)
【information】
SACD『ザ・リサイタル/久末航』
メンデルスゾーン:幻想曲「スコットランド・ソナタ」、「無言歌集」より〈浜辺で〉〈春の歌〉/スカルラッティ:ソナタ 変イ長調、同ト長調、同ヘ短調/メシアン:「幼子イエスに降り注ぐ20の眼差し」より〈第5曲 子を見つめる子の眼差し〉〈第8曲 高き御空の眼差し〉/ラヴェル:夜のガスパール
久末航(ピアノ)
アールアンフィニ
MECO-1067 ¥3300(税込)