“オペラ”になったベケットの世界
演劇的な要素の強いオペラを、映像も交えた演出によって劇場空間で上演する——そんな企画が新たにスタートする。第1弾は日本初演の《クラップ〜最後のテープ》。不条理劇の代名詞的存在『ゴドーを待ちながら』などで知られる、劇作家サミュエル・ベケットの戯曲をオペラ化したものだ。
作曲は、ベケットが書いたラジオドラマ『カスカンド』の音楽を手がけ、ベケット本人とも親交があったマルセル・ミハロヴィチ。1958年に発表された同名の戯曲を1幕ものの室内オペラに仕上げ、61年にパリで初演されている。
気になる内容は、69歳の誕生日を迎えたクラップ老人が、毎年恒例の1年を振り返る独白の録音準備をしながら30年前の録音テープを聞くと、39歳の自分がその10年ほど前のテープを聞いた感想を語っていて……というもの。そう、本作品はモノオペラなのだ。とはいえ、そこはベケットの戯曲をオペラ化しようなんて考えた作曲家。生の歌声とオーケストラに、テープに録音された声や音楽を組み合わせるというユニークな方法で、その世界観を大胆に表現している。
そんな実験的作品のクラップ役と演出を務めるのは、劇団四季のミュージカル『オペラ座の怪人』のファントム役など、役者としても活動しているバリトンの大山大輔。さて、若き日から現在までのクラップをどう歌って演じ分け、どう演出して魅せるのか? 少数精鋭で挑む意欲作に乞うご期待!
文:岡崎香
(ぶらあぼ2014年5月号から)
★5月30日(金)、31日(土)、6月1日(日)・池袋/あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)
問:K Productions 042-422-0373
http://kproductions.co.jp