チョン・ミョンフン(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

「内側で燃えている」必聴のブラームス交響曲

7月定期演奏会より (c)K.Miura

 チョン・ミョンフンの音楽はますます内奥へ向かっている─東京フィルと12年ぶりに挑む「ブラームス交響曲の全て」の7月公演の1曲目、交響曲第1番の出だしを聴いて即座にそう思った。堂々たる進軍ならぬ地を這うように沈んだ動きは、これまでこの曲で耳にしたことがない世界だ。その後も陰りを強調した重厚ながらもくすんだ音楽が続く。しかし第2番では一転陽光の世界へと移行。こちらは明朗かつ引き締まった音楽が展開される。最後の迫真的な畳み込みの後は場内も興奮の坩堝。《カルメン》の名演以来1年4ヵ月ぶりの共演に東京フィルの集中力もMAXで、当コンビの別格感と絆の深まりを強く印象付けた。

 2曲ともに内側で燃えていることは間違いない。だが曲の性格に沿って放射される方向が変わる。この1番&2番の見事な対比を聴くと、9月の3番&4番への期待のボルテージは高まるばかりだ。雄渾な活力と寂寥が並立し、全楽章が弱音で終わる、どこか不思議な交響曲第3番、古い形式を活用した密度の濃い技法で濃厚なロマンが表出される傑作交響曲第4番……1番&2番以上に複雑な両曲を、円熟味を増した今のチョン・ミョンフンが、付き合いも20年に達する東京フィルとともに、どのようなアプローチでいかに表現し、いかなる感銘を与えてくれるのか? これはこの上なく興味深い。

 チョン・ミョンフンは、「私にとってブラームスの音楽は、突き破って飛び立つのを待っているような燃える情熱です」、そして「第4番では心が飛翔する」と語る。9月の東京フィル定期に足を運び、その情熱と飛翔をぜひ体験したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年9月号より)

第141回 東京オペラシティ定期シリーズ
2021.9/16(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第958回 サントリー定期シリーズ
9/17(金)19:00 サントリーホール
第959回 オーチャード定期演奏会
9/19(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
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