【CD】野本哲雄プレイズ展覧会の絵

 思慮深く、入念に仕上げられた演奏。パルティータ冒頭のシンフォニアから、この人の音楽観がダイレクトに伝わってくる。重厚かつ敬虔にはじまった歩みは、音をぴんと粒だたせた優美なステップを経て、声部がエネルギーを受け渡しあうフーガへと発展していく。「展覧会の絵」も考え抜かれていて、タッチを細やかに使い分けることで、各フレーズをどう解釈しているのかが明快に伝わってきた。絢爛たる演奏効果に傾く解釈が多いなか、一見地味に感じるけれど、丁寧なアプローチは見知った曲への新たな気づきを促してくれる。「舟歌」でしっとりと閉じたのも一貫性が感じられ、とても納得した。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年6月号より)

【information】
CD『野本哲雄プレイズ展覧会の絵』

J.S.バッハ:パルティータ第2番/ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」/チャイコフスキー:舟歌(「四季」より〈6月〉)

野本哲雄(ピアノ)

ナミ・レコード
WWCC-7942 ¥2750(税込)