【CD】J.S.バッハ:フーガの技法/近藤伸子

 音がそこに存在するのに、強く感じる静謐さ。第1音から、聴く者の心を捉える。ベルリン芸大などに学び、バロックから現代に至るレパートリーを武器に、国際的に活躍する近藤伸子。今回は、大バッハの謎に満ちた傑作「フーガの技法」に対峙した。打弦の瞬間のみならず、残響まで巧みに計算に入れて、楽譜へ命を吹き込む近藤。モダン・ピアノならではの表現を追求し、この楽器で弾く“必然”にまで昇華してみせる。最後に置かれた「B-A-C-H」の名による未完フーガ。絶筆の第239小節で、響きは途切れる。しかし、その後に訪れる静寂は第1曲へと繋がり、音楽は永遠の生命を得る。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2021年5月号より)

【information】
CD『J.S.バッハ:フーガの技法/近藤伸子』

J.S.バッハ:コントラプンクトゥスⅠ〜ⅩⅢ、8度のカノン、3度の転回対位法による10度のカノン、5度の転回対位法による12度のカノン、反行形による拡大カノン、3つの主題によるフーガ(未完)

近藤伸子(ピアノ)

コジマ録音
ALCD-9214, 9215(2枚組) ¥3740(税込)