詩と音楽の一体化がもたらす新発見の喜び
いま最も輝いているソプラノ歌手・嘉目真木子が、トッパンホールの育成プロジェクト「エスポワール シリーズ」の第2回公演を行う。彼女は、河村尚子、日下紗矢子といった実力者が名を連ねる当シリーズに選ばれた初の歌手。2010年東京二期会《魔笛》のパミーナで本格的にオペラデビューした後、《フィガロの結婚》のスザンナ、《魔弾の射手》のアガーテ等の主役や「第九」のソリスト等で活躍し、清澄な美声、緻密で深い表現力、そして舞台での圧倒的存在感で魅了している。
「オール日本歌曲」で知られざる作品の魅力を伝えてくれた19年4月のVol.1に続く今回も、創意に充ちたプログラムが目を引く。それはドイツ・リート以外の19〜20世紀ヨーロッパ歌曲。ベッリーニ、ラロ、クィルター、マルティヌー、オブラドルス、グリーグ、シマノフスキ、チャイコフスキーの8人・8ヵ国の作品が並んでいる。しかも大半がめったに歌われない曲。これらを生で聴けるだけでも貴重だし、詩を深く読み込む嘉目が、異なる言語の諸作でいかなる音楽世界を生み出すのか、大いに注目される。
もう1つ見逃せないのが北村朋幹のピアノ。器楽奏者には稀な文学的センスを持つ彼の「詩と音楽」に対する洞察力が、Vol.1でも嘉目に佳き影響を与えていただけに、今回も二人にしか到達し得ない境地が創出されるに違いない。北村はこう語っている。「成功した演奏では、発音と音楽が完全に一体化し、まるで音楽がその言葉の通訳をしているように聴こえる」(トッパンホールプレスより)。本公演はまさしくそうした体験への期待に充ちている。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年3月号より)
2021.3/13(土)17:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com