バッハの無伴奏には人生の喜び、諦め、輪廻が描かれています
長期間にわたる審査など、最難関と言われるエリーザベト国際音楽コンクール。そのヴァイオリン部門で1980年に日本人として初めて優勝を飾ったのが堀米ゆず子だ。それから40年。ずっと世界の第一線で活躍を続けてきた彼女にとって節目の年に、それを記念して兵庫県立芸術文化センター(11/7)とサントリーホール(11/11)でソロ・リサイタルが行われる。選んだ作品はJ.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の中から、ソナタ第1&2番、パルティータ第1&2番の4曲だ。
「これまでに様々なスタイルのリサイタルを行ってきましたが、今回はバッハの作品だけでも良いかな? と昨年ぐらいに思いました。作曲家が作品を作っていく過程には、その生き方が必然的に関わってきます。この次の曲はこの心境で、というようなアイディア、想い。それを強く感じるので、バッハの作品でそれを再現しようと思いました。ただ、全6曲演奏するとなると、昼と夜の2回のコンサートになってしまうので、今回はソナタ第1番から始まりパルティータ第2番まで、という形に収めました」
彼女がバッハの無伴奏曲と付き合い始めたのは小学校4年生からだった。
「先生から勉強するようにと、BWV1006(パルティータ第3番)のプレリュードをいただき練習を始めました。洋館で弾いてみた時になにか『啓示』のようなものを受けたという記憶がはっきりあります」
長じて江藤俊哉氏の教えを受けることになった。
「江藤先生は、バッハはメロディですよ、と。対位法、和声、ともすれば音の充実にばかり気をつかっていた時に、その言葉をいただき、ハッとしました」
以前に、兵庫県立芸術文化センターでバッハとブラームスを中心にしたプログラムで連続リサイタルを行ったことがあった堀米。その時には「バッハは背骨」と語っていたのが印象的だった。
「いまは『バッハは全身』でしょうか。今年の夏に母を亡くしました。92歳の大往生でした。父は42年前に他界していますが、父が好きだったフランスの文学などを読み返し、彼らの教育、導きの恩恵に心を新たにしました。バッハの有名な『シャコンヌ』も、最初の奥さんが亡くなった後に書かれています。そこにも人生の始まり、その喜び、諦め、そして輪廻も描かれていると感じています」
能の世界にも魅かれ、世阿弥の言葉の中に心を打つものがあり、その影響で自身の表現が変わってきたという堀米。バッハの世界を通して彼女の生き方も感じさせてくれるリサイタルになるに違いない。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2020年11月号より)
堀米ゆず子 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル
2020.11/7(土)14:00 兵庫県立芸術文化センター
問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
http://www.gcenter-hyogo.jp
11/11(水)19:00 サントリーホール
問:ヒラサ・オフィス03-5727-8830
http://www.hirasaoffice06.com