~愛と平和への祈りをこめて Vol.10〜 森 麻季 ソプラノ・リサイタル

新境地を開拓する名ソプラノが届ける歌の贈り物

C)Yuji Hori

 日本を代表するオペラ・シンガーとして着実にキャリアを積み重ね、歌唱表現の幅を広げてきた人気ソプラノ。現地で米国同時多発テロ事件に遭遇した体験を胸に、10年後の2011年にスタートさせた9月恒例のリサイタルは「音楽の持つ力」を信じ、何かと不安なこの時代に、聴き手の心にすっと寄り添うような歌を届けることを目指す彼女の「愛と平和」を祈念する揺るぎない信念を象徴する企画。

 記念すべき10回目となる今年は、長きにわたって好パートナーを続けている山岸茂人のピアノ伴奏はそのままに、プログラムを大胆にリニューアル。近年の定番だったフランスの歌曲やオペラ・アリアから、ドイツ・リートの世界に挑むようだ。しかも、まずはシューマンのドラマティックな連作歌曲「女の愛と生涯」が選ばれているのが目を惹く。過去の録音にはなかったレパートリーだけに、これからこの分野がどのように花開いていくのか、大いに楽しみだ。加えて、もうひとつのテーマはイタリア・オペラ。こちらも従来の軽やかなコロラトゥーラ系から、《ノルマ》の〈清らかな女神よ〉を筆頭に《アドリアーナ・ルクヴルール》の〈私は神の卑しい僕〉、《ラ・ワリー》の〈さようなら、ふるさとの家よ〉など、より重めの声で聴かせる路線にシフトしているのがわかる。そう、これら繊細さのなかに「強さ」を感じさせる今回のラインナップこそ、彼女から「コロナ禍」を生きる私たちへの贈り物に違いないのだ!
文:東端哲也
(ぶらあぼ2020年7月号より)

2020.9/13(日)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
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