布谷史人(マリンバ)

Photo:Claudia Hansen

ドイツを拠点に演奏活動を展開し、国際的な評価も非常に高いマリンバ奏者の布谷史人が2月に発表したアルバム『マリンバのための協奏曲集』(独OEHMS CLASSICS)が、反響を呼んでいる。「何を演奏すべきか、迷いの中で見つけた答えでもある」という、様式も雰囲気も全く異なる3つの作品。9月には、収録曲を核とした、リリース記念のリサイタルを東京で開く。

「マリンバのオリジナル作品は、全て“現代音楽”。様々な様式やジャンルの影響を受けつつ、新たな形式や表現方法が探究され、今なお発展し続けています。僕も、幾つもの作品を演奏してきましたが、無調だったり、深い精神性が求められなかったり…。何を演奏すべきか、長い時間、迷っていました。今回の選曲は、その答えでもあります」

冒頭に収録したのは、ヴィヴァルディのリコーダー協奏曲からの編曲。第1音から、体験したことのないサウンドが衝撃的だ。バロック音楽の作法をきっちり踏まえる一方、トレモロの柔らかな表現と、分散和音でのエッジを立てた表現の対比など、マリンバ独自の表現も。

「マリンバでバッハなどバロック作品を演奏することはよくありますが、その理由の一つに、音楽への造詣を深めることが挙げられます。今回の録音をきっかけに、時代特有のフレージングやアーティキュレーションが勉強できました」

そして、布谷が2006年から愛奏している、抒情性に満ちたセジョルネの佳品。

「後世に残り得る名曲だと思います。他の奏者には自分の演奏がどう響くのか、何か若い人たちに少しでも刺激を与えられれば、との想いで録音に臨みました。ドラマのような性格も持つので、聴かれる方には自由にストーリー性を感じていただければ嬉しいですね」

さらに、布谷自身が信長貴富に委嘱した新作「混線するドルフィン・ソナー」は、浮遊感と高揚感、スピード感に溢れる。

「信長さんへの委嘱は、東日本大震災への思いを込めた『種を蒔く人』に続き、2作目です。どちらの作品も、奏者と聴き手が作品を通して、様々にコミュニケーションを取ることを可能にしてくれる。非常に貴重な存在となっています」

リサイタルの軸を成すのは、オーケストラと共演してのセジョルネと信長の協奏曲。そして多才のピアニスト、ベンヤミン・ヌスとのデュオで、ジャズのテイストを含んだローゼンブラット「カルメン・ファンタジー」や、テクノと現代音楽を融合した須山真怜の新作「ツリー・ダンス」の日本初演など、彩り豊かなラインナップに。

「僕は演奏の際、“歌うこと”を強く意識しています。それが、マリンバという楽器の歴史においてどこまで重要なのか。そして、どれほど聴き手の心に響くのか。未だに手探りですが、それでも、マリンバで“歌うこと”の可能性を信じたい。そして、自分の演奏がいっそう深まり、様々な歌を届けられるような作品を生み出してもらえるよう、委嘱活動も続けたいですね」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年9月号より)

布谷史人 マリンバ・リサイタル
2019.9/13(金)19:00 第一生命ホール
問:アスペン03-5467-0081
https://www.aspen.jp/

CD『マリンバのための協奏曲集』
OEHMS CLASSICS
OC1891
¥オープン/輸入盤