モーツァルトは自分になじみ、自信の持てる作曲家の一人です
“神童”として早くから注目され、すでに盛んに演奏活動を行う中、高校3年でカーティス音楽院に留学した小林愛実。2015年にはショパン国際ピアノコンクールに挑戦してファイナリストとなった。現在23歳、ピアニストとして多様な経験を重ね、着実に音楽性を育んでいる。
来る7月、小林はアルミンク指揮ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団日本ツアーのソリストとして、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番を弾く。彼女が初めてオーケストラとモーツァルトを演奏したのは、7歳の頃。長く弾き続けてきただけに「自分になじみ、自信の持てる作曲家の一人」だという。
「モーツァルトの曲には必要最低限の音しか使われていないので、全ての音符に意味があることがより感じられます。ここはこう歌おう、こんな楽器の音のように弾こうと、オペラやオーケストラを想像しながら音を作っていると、難しいところもありますが、楽しいという感覚の方がずっと大きいのです。20番はニ短調の特別な協奏曲で、優しいけれど力強くもあり、前向きな音が求められます」
彼女がこの曲を初めて演奏したのは約10年前。ワルシャワの「ショパンと彼のヨーロッパ音楽祭」で、共演は故フランス・ブリュッヘン指揮の18世紀オーケストラだった。
「まだ12歳でしたから、どれだけすごい指揮者なのか意識できていなくてもったいなかったのです(笑)。子どもだった私からすると、彼はものすごいおじいさんで、舞台には手を引いて出て行きました。あと、いつも私が本番前に食べるチョコレートを、一緒に分けて食べたことも覚えています。今ならすごく緊張すると思いますが…人間の意識っておもしろいですね」
アルミンク、リエージュ・フィルとは初共演。アメリカ生活が長くなるにつれて、フレンドリーな海外のオーケストラとの共演が心地よくなってきたという。
「かしこまった挨拶がないかわりに、みんなが対等で、一人ひとりが音楽を楽しんでいる雰囲気が感じられて、私もらくに音楽と向き合えます」
留学は彼女にとってとにかく大きな経験となっている。
「大勢でなくても、誰か一人にでもいいからちゃんと伝わる演奏ができれば自然と想いは届くはず。そう思えるようになりました。また、音楽院には同じ立場で上を向いて頑張る仲間がいるので、私も頑張ろうと思えます。日本にいたら現状に満足して、視野が広がることもなかったと思います。変わった子も多く、世の中にはいろんな人がいるとわかって、自分の性格も柔らかくなったんじゃないかと(笑)」
成長し続ける彼女が自然体で奏でるモーツァルト。大いに期待したい。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2019年6月号より)
クリスティアン・アルミンク(指揮) ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団
共演:小林愛実(ピアノ)
2019.7/1(月)19:00 サントリーホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960
アルミンク(指揮) リエージュ・フィルの他公演
2019.6/29(土)京都コンサートホール(共演/ギター:鈴木大介)(カジモト・イープラス0570-06-9960)
2019.6/30(日)すみだトリフォニーホール(共演/ギター:鈴木大介、オルガン:ティエリー・エスケシュ)(03-5608-1212)