モーツァルトゆかりの劇場が繰り広げる《フィガロ》の愉悦
モーツァルトの《フィガロの結婚》に最も必要なもの─それは「練習に次ぐ練習」である。登場人物の数が多く、みな多弁で丁々発止のやり取りが続くから、稽古に稽古を重ねないとテンポよく進まない。だから、このオペラではチームワークが大切になる。主役から端役までみっちり練習を積んでこそ、活き活きとしたやりとりがステージで花開くのだ。
200年以上も前の作品ながら、《フィガロの結婚》の世界は今と変わらぬ価値観のもとにある。ストーリーを今風に纏めれば「ワンマン社長にセクハラされる女子社員とパワハラを受ける男性社員が婚約中で、管理職たちの横暴な振る舞いにも屈せず、社長夫人の応援も得て、無事に結婚に至る」といったものに。18世紀の物語なので楽譜上の肩書は伯爵、従僕、小間使いと仰々しいが、ドラマの本質はまさしく21世紀に通ずるものなのだ。
今回のプラハ国立劇場の舞台は、オーケストラ含めての引越し公演だが、この2月にお披露目されたばかりという出来立てほやほやのプロダクション。女性演出家マグダレーナ・シュヴェツォヴァーのカラフルな色使いのもと、「モーツァルトの人柄を直に知るオペラハウス」の面々が、緊密かつ息の合ったアンサンブルを聴かせてくれるだろう。また、今回は伯爵夫人役でイタリアの名花、エヴァ・メイ(東京、大阪公演のみ出演)が参加するから見逃せない。美貌を誇るべテランの彼女が、後輩世代がビシバシと歌い続ける中で、優雅さと喜劇性をどんな風に織り交ぜてくれるのか、楽しみにしている。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2018年12月号より)
2019.1/5(土)、1/6(日)各日15:00 東京文化会館
総合問:楽天チケット/コンサート・ドアーズ03-6628-5416
http://www.concertdoors.com/
※他全国12会場で上演。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。