平井元喜(ピアノ/作曲)

“歌心”と作曲者の「魂」を伝えたい

 この20年以上にわたってロンドンを拠点に、NYのカーネギーホール、ウィーンのコンツェルトハウス、アムステルダムのコンセルトヘボウ等、世界60ヵ国以上で演奏を行ってきたピアニスト平井元喜。収益を英王立マースデンがん基金に寄付するチャリティー・コンサートを東京でも執り行う。
 祖父である作曲家の平井康三郎と、父でカザルスの高弟でもあるチェリスト平井丈一朗から、SP時代のティボーやシャリアピンといった偉大な演奏家の話を聞かされながら育った平井は、今も「第一次世界大戦以前の時代の空気を知っている演奏家が好き」なのだという。
「憧れであり、尊敬しています。20歳ぐらいまではヴァイオリンを主に演奏していたので、弦楽器や歌などをよく聴いていました。楽器が変わっても、弦楽器に比べて機械的な楽器であるピアノをいかに歌わせるかというのが僕のテーマです。古い音楽は楽譜からしか入れませんが、まずは“音楽”があった。情報源としては大事なものですが、作曲家によって楽譜は“道しるべ”ぐらいである場合もあります」
 彼の演奏からは古き良き時代のヨーロッパ、とりわけ作曲家自身が優れた演奏家でもあった頃の香りが漂う。
「ピアノのレパートリーで言えばバルトークぐらいまで、コンポーザー=ピアニストであることがバッハもベートーヴェンも当たり前ですよね。僕にとっては、とても自然なことです」
 実際、バッハとベートーヴェンに続いて演奏されるのは、日本初演となる平井自作の組曲「伝説の詩(うた)」だ。音楽監督兼プロデューサーとして関わる国際文化交流・教育プロジェクト「音楽と民話で世界をつなぐ」の中で書き溜めた楽曲を中心にまとめたものだという。
「20代の頃は近現代の音楽を好んでいましたが、次第に演奏家としても作曲家としても古典に還っていくようになりました。やっぱりメロディやハーモニーは偉大で、一瞬で老若男女の心に響く普遍的なものだと思うのです。童謡や民話にも惹かれますね」
 後半に控える、リストやゴドウスキーといった大ピアニストの編曲と、自編のシューベルト作品を並べたプログラムにも、平井の目指す音楽像が感じられるはず。
 プログラムを構成する「古典」「自作」「ロマン派」という三本柱。これらに通底するのは“歌心”と、作曲者の「魂」を直接的に聴衆に伝えたいという強い想い。是非とも平井渾身の音楽を会場で受け取り、自由な発想で聴いていただきたい。
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2018年11月号より)

平井元喜 ピアノリサイタル 〜がんと闘う世界のこどもたちに勇気と希望を〜
2018.11/13(火)19:00 浜離宮朝日ホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638 
http://www.motoki-hirai.com/