トンチエ・ツァン(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

未知の才能に出会う驚きと喜び


 10月の東京シティ・フィル定期に注目の指揮者が登場する。その名はトンチエ・ツァン。2015年ニコライ・マルコ国際指揮者コンクールで優勝して脚光を浴びる、1982年台湾生まれの逸材だ。カーティス音楽院とワイマール音楽大学で学んだ彼は、ショルティ、マーラー両指揮者コンクールでも良績を収め、すでにバンベルク響、ドイツ・カンマーフィル、デンマーク国立響、ベルリン・ドイツ響、アイルランド国立響ほか欧州の楽団に多数客演。明快なタクトと躍動感溢れる演奏で評価を高めている。
 プログラムの前半は、ハイドンの交響曲第102番、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番というウィーン古典派の作品。ハイドンの102番は熟達の手になる充実作で、躍動感に充ちた音楽はツァンの個性にも合っている。しかも難物ハイドンを選んだ点に、彼の自信が窺える。協奏曲のソロは人気抜群の三浦文彰。2009年ハノーファー国際コンクールで優勝して以来、内外で活躍する彼の今を知るに、モーツァルトは格好の演目だし、俊才同士の協奏が生み出すフレッシュな音楽への期待も大きい。
 後半は、プッチーニの「交響的前奏曲」、レスピーギの「ローマの松」と、イタリアの管弦楽曲が続く。前者は、18歳のプッチーニが書いたロマンティックかつ抒情的な佳品。生演奏自体が貴重な上、聴けばその才気に必ずや驚かされる。精緻にして華麗な名曲「ローマの松」は、ツァンの構成力や美的センスと、近年充実一途のシティ・フィルのサウンドに耳目が集まる。これは、若き才能が魅せる、未来への示唆に富んだ一夜だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年10月号より)

第319回定期演奏会
2018.10/19(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 
http://www.cityphil.jp/