9年ぶりに登場する大野、そしてオペラで復活する小澤
今年こそは、オペラ公演が、小澤征爾自身の指揮で聴けそうだ。この稿執筆時点では、体調も良好と聞いている。実現すれば、《青ひげ公の城》公演の一部(4回のうち2回)を指揮した一昨年以来2年ぶり、もし全公演を振るとなれば《利口な女狐の物語》以来、5年ぶりになる。ただし、全公演といっても、今年のプログラムに組まれているラヴェルの2つのオペラ―《こどもと魔法》《スペインの時》のうち、彼が振るのは前者のみなのだが、それでもいい。とにかく、彼が指揮台に姿さえ見せてくれれば、お客は大満足なのである。
特にラヴェル作品は、昔から小澤の十八番のレパートリーだ。《こどもと魔法》は、日本でも1975年に新日本フィルとの演奏会形式上演を指揮したことがある。いたずら坊やと、擬人化された椅子や茶碗や時計、それに動物たちが織り成す可愛い幻想的な物語だが、このユーモアとウィットにあふれる音楽を振る小澤のセンスが抜群だ。演出のロラン・ペリーも、前出の《利口な女狐の物語》で見事な「動物たち」の動きを見せてくれた人である。今回もどんな温かい舞台を見せてくれるだろうか。
もう一つの大きな話題を集めているのは、今年の「オーケストラ・コンサート」を指揮する大野和士だ。彼も久しぶり、実に9年ぶりのサイトウ・キネン・フェスティバル松本(SKF)登場だが、あの頃と今とでは、彼の世界での評価も格段に違う。今や押しも押されもせぬ、世界的な実力派指揮者に成長した大野和士である。つわものぞろいのサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)を制御する実力も貫録も、日本人指揮者としては、すでに小澤征爾に次ぐ存在感を示すと言って間違いではない。
今回は、R.シュトラウスの名曲「ツァラトゥストラはかく語りき」や、モーツァルトの「交響曲第33番」、それに現代作曲家リゲティの作品の日本初演ものなどを携えての客演指揮になるが、これまた面白そうだ。特に前者は、昨年ダニエル・ハーディングが客演指揮した「アルプス交響曲」の例でもわかるとおり、オーケストラの威力を最大限に発揮する大曲を手がけた時のSKOの威力には並外れたものがあるので、これに大野和士の巧みな音楽づくりが加われば、まさにスリリングな聴きものになるであろう。圧倒的に豪壮な冒頭の個所は、映画「2001年宇宙の旅」ですっかりおなじみになった音楽であり、ここでその日の演奏のすべてが決まる、というわけである。
文:東条碩夫
(ぶらあぼ2013年9月号掲載)
大野和士(指揮)サイトウ・キネン・オーケストラ
9月3日(火)、9月4日(水)・キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
チケット予約・問い合わせ:サイトウキネンチケットインフォメーション0570-063-050(オペレータ対応10時〜18時)
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