最後の日本ツアー追加公演はオール・モーツァルトで
引退を発表した現代屈指のピアニスト、マリア・ジョアン・ピリスの最後の日本公演はすでに発売となっているが、待望の追加公演が行われることになった。近年、ピリスはエリーザベト王妃音楽大学で教鞭を執り、若き俊英たちを指導している。そんな若手演奏家と同じステージに立ち、自己の利益を求めるのではなく、他者との共存や分かち合いを目指すことを目的とした「パルティトゥーラ・プロジェクト」を立ち上げた。パルティトゥーラとは、楽譜や総譜を意味する。
今回の追加公演はピリスとともに同プロジェクトに関わっているアルメニア出身のピアニスト、リリット・グリゴリアンとの共演。さまざまな国際コンクールで入賞を遂げ、ヴェルビエ音楽祭をはじめとする多くの音楽祭から招かれている逸材だ。モーツァルトの「4手のためのピアノ・ソナタ」(K.19d、K.381、K.521)でピリスと息の合ったところを披露する。もちろん、ピリスのソロ(K.330)も予定され、グリゴリアンもソロを演奏する(K.576)。
ピリスの紡ぎ出す音楽は真摯で誠実で楽譜に忠実なピアニズムだが、その奥に内なる情熱が燃えたぎり、聴き手の深奥に響くのである。いずれの作品でも作曲家の意図したことに肉薄し、楽譜の裏側まで迫っていく。それゆえ、聴き終わると深い感動が胸に押し寄せ、すぐには席を立てなくなってしまう。最後の日本公演でも、あの得も言われぬ至福のときが味わえるに違いない。貴重な音の記憶──ピリスの渾身の演奏に身も心も委ねたい。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2018年4月号より)
2018.4/24(火)19:00 川口リリア・音楽ホール
2018.4/26(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:ミュージックプラント03-3466-2258
http://www.mplant.co.jp/