新国立劇場 オペラ2018/19シーズン

大野和士新芸術監督が打ち出す新機軸

新国立劇場2018/19シーズンのオペラ公演のラインナップが発表された。モネ劇場、リヨン歌劇場などのポストを歴任し、世界の歌劇場の最前線を知る大野和士の芸術監督就任で、同劇場が“世界の劇場の潮流”へとさらなる発展を遂げるであろう期待が高まる。会見での言葉を引用しつつ、新シーズンの注目点を紹介しよう。

取材・文:柴田克彦(ぶらあぼ2018年3月号より)


5つの目標

大野は5つのポイントを目標に掲げる。1つ目はレパートリーの拡充。これまで年間3演目だった新制作を4演目に増やし、海外のプロダクションを紹介する際には、レンタルではなく買い取りとすることで、繰り返し再演可能なシステムに変える。2つ目は日本人作曲家委嘱作品シリーズの開始。大野監督の就任初年度から1年おきに行う。作曲家、台本作家、演出家、芸術監督の間での綿密な協議のもと、オペラの醍醐味である重唱を重視するなど、これまでのオペラの創作からさらに踏み込んだ新機軸を打ち出す。3つ目は、2つの1幕物オペラ(ダブルビル)と、バロック・オペラの新制作の1年おきの実施。前者は“一粒で二度おいしい”企画、後者は当劇場シーズン公演初の試みだ。4つ目は、旬の演出家、歌手をリアルタイムで届けること。優秀な日本人歌手の主役級への起用も含まれる。5つ目は他の劇場との積極的なコラボレーション。東京発の新制作ワールド・プレミエを積極的に世界に広めていく。世界の旬のオペラを日本の観客に紹介し、さらに世界に発信したいという大野の夢が結実したラインナップだ。

左:大野和士 右:西村 朗
提供:新国立劇場 撮影:小林由恵

監督初指揮は西村 朗の新作《紫苑物語》

笈田ヨシ

新制作4本の中でも注目は、大野が指揮する最初の演目にして、日本人作曲家委嘱作品シリーズの第1弾、《紫苑物語》だ。原作は石川淳。「平安時代。歌の道を捨てて弓に道を求め、人や狐を殺めた宗頼(“紫苑=忘れな草”は彼の足跡の象徴)が、狐の化身・千草との愛などを経て、桃源郷で自分と瓜二つの仏師・平太に出会い、仏に矢を放つとすべてが崩壊。不思議な『歌』だけが残る」といった物語で、“芸術家の生涯”を介して芸術や死の永遠性が語られる。この幻想的な世界を、現代日本を代表する作曲家・西村朗が、詩人・佐々木幹郎の台本で音楽化。演出には、俳優にして欧州でオペラ演出家として活躍、大野が「世界で最も有名な日本人演出家」と太鼓判を押す笈田ヨシを迎える。しかも西村と笈田は「かつてのR.シュトラウスとホフマンスタールのような熾烈なやりとりをしている」(大野)という。ピットには東京都交響楽団が入り、キール歌劇場専属のバリトン、髙田智宏をはじめ優れた歌手陣も集結。「万全の形」(大野)で臨むだけに必見だ。


『オペラ夏の祭典2019-20』、ダブルビルなど多彩な新制作

開幕はモーツァルト《魔笛》が飾る。これは、南アフリカ出身のヴィジュアルアーティストで、世界のオペラ界でセンセーションを巻き起こしているウィリアム・ケントリッジのプロダクション。2005年、大野が音楽監督時代のモネ劇場を皮切りに、スカラ座(今回の指揮は同劇場公演を振ったローラント・ベーア)ほか十数の劇場で上演され、3Dを思わせる映像効果と相まって人気を呼んでいる。

《魔笛》
C)Elisabeth Carecchio – Festival d’Aix-en-Provence 2009

「ダブルビル」の第1弾は、共にフィレンツェを舞台にした、ツェムリンスキー《フィレンツェの悲劇》とプッチーニ《ジャンニ・スキッキ》。耽美的な悲劇とシニカルな喜劇を、日本屈指のオペラ指揮者・沼尻竜典と売れっ子演出家・粟國淳のタッグで堪能できる。世界的スター、セルゲイ・レイフェルクス、カルロス・アルバレスの出演も要注目。なお本公演は、今後のダブルビルへの礎でもあるという。

そしてプッチーニ《トゥーランドット》。東京オリンピックに向けた大型企画『オペラ夏の祭典2019-20』の第1弾として、東京文化会館と初めて共同制作し、びわ湖ホール、札幌文化芸術劇場とも連携する、まさに「東京発」の舞台だ。大野がバルセロナ交響楽団を指揮し、バルセロナ・オリンピックの開会式を手がけたアレックス・オリエが演出。共に各地で同役を歌っているイレーネ・テオリン、ジェニファー・ウィルソン(大野いわく『世界のトップ2』)のトゥーランドット、世界の第一線で活躍するサイモン・オニール、テオドール・イリンカイのカラフなど、豪華キャストも目を奪う。

世界で活躍する藤村実穂子、脇園彩も登場

《カルメン》2017年公演より
提供:新国立劇場 撮影:寺司正彦
《ファルスタッフ》2015年公演より
提供:新国立劇場 撮影:寺司正彦
《タンホイザー》2013年公演より
提供:新国立劇場 撮影:三枝近志

再演6演目には、フランス、イタリア、ドイツの人気作がバランスよく並ぶ。ビゼー《カルメン》は、情熱的な美貌の“カルメン歌い”ジンジャー・コスタ=ジャクソンの初出演、ヴェルディ《ファルスタッフ》は、イタリア・オペラにおける現代の代表格で、METの今シーズン開幕の《ノルマ》も振ったカルロ・リッツィの指揮、ワーグナー《タンホイザー》は、共にバイロイト音楽祭でタンホイザー、ヴォルフラムを歌ったトルステン・ケールとローマン・トレーケルの出演、マスネ《ウェルテル》は、日本が誇る藤村実穂子のシャルロット・デビュー、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》は、イタリアの俊英フランチェスコ・ランツィロッタの指揮と、スカラ座はじめイタリアの歌劇場を席巻する脇園彩の初登場(ドンナ・エルヴィーラ役)、プッチーニ《蝶々夫人》は、フィレンツェやシアトルなど各地で歌っている佐藤康子のタイトルロール…と、それぞれが話題性に富んでいる。
大野体制の新シーズンは新鮮な魅力満載。見逃せない舞台ばかりだ。

《ドン・ジョヴァンニ》2014年公演より
提供:新国立劇場 撮影:寺司正彦
《ウェルテル》2016年公演より
提供:新国立劇場 撮影:寺司正彦
《蝶々夫人》2017年公演より
提供:新国立劇場 撮影:寺司正彦

新国立劇場オペラ2018/19シーズン
2018年10月《魔笛》、11/12月《カルメン》、12月《ファルスタッフ》、
2019年1/2月《タンホイザー》、2月《紫苑物語》、3月《ウェルテル》、
4月《フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ》、5月《ドン・ジョヴァンニ》、
6月《蝶々夫人》、7月《トゥーランドット》
新国立劇場オペラパレス
シーズンセット券:3/31(土)まで先行受付
一般発売:6/23(土)から順次販売
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/