池田亮司、ハイナー・ゲッベルスがKYOTO EXPERIMENTで日本初演

KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭は回を重ねるごとに注目度が高くなり、目がはなせなくなっている。多くのイベントが毎日至るところで開催されている東京のような場所では、「フェスティバル」が「フェスティバル」としてまとめられるだけのものを持っていなければ、ほかのところでおこなわれているあまたの公演に紛れてしまう。人びとの関心も分散してしまい、なかなかひとつところに集めることはできない。だから逆に、大きすぎない京都で、しかもEXPERIMENTと銘打ってこその特色をだす。それがKYOTO EXPERIMENTだ。このEXPERIMENTの語はもちろんいろいろな意味を持ち、それゆえの集中力、吸引力もある。EXPERIMENTに興味があるかないか。もしないなら、ただそもそもはじきとばしてしまうばかりだ。

池田亮司『the radar [kyoto] 』
Photo by Takeshi Asano

昨年のことをすこしふりかえっておきたい。
夕方、キャンパスからでるときにパフォーマンス研究の同僚と遭遇。ほんの刹那のこととて、また!と挨拶すると、「これから京都なんですよ」と言うではないか。あ、そうか・・・まいったな・・・。同僚が足を運ぶのは池田亮司の「concert pieces」なのだった。ほぼ15年にわたって発表してきた池田の作品が一堂に会する。通常の音はもちろん、可聴域を越え、振動として伝えられるものを体感できる稀有な機会。ちょうど身動きがとれぬことにすっかり落ちこんでしまったのは言うまでもない。

池田亮司『Ryoji Ikeda: concert pieces』
Photo by Takeshi Asano

だが、である。今年はこの音楽家にしてヴィジュアル・アーティストである人物の新しい作品が予告されているではないか。しかも今回は、スピーカを介したものやエレクトロニクスがらみではない、という。スイスはジュネーヴ、4名からなるパーカッション・アンサンブルEklektoとつくりあげた「完全アコースティック」な作品。正直、予想はつかない。これまで、ひじょうに緻密に音響をつくりあげてきたのはまさに電子音響だからこそといえるのだったけれど、それをヒトの身体を介して、アコースティックで、ではどういうことになるのか。この新作への期待とともに、昨年から今年にかけてのKYOTO EXPERIMENTという場が、池田に焦点をあててみるなら、ひとつの蝶番のような位置にあるようにみえてくる。

池田亮司×Eklekto『music for percussion』
C)Raphaëlle Mueller

もうひとつ、池田とはべつの意味で、身体性をみせつける音楽作品が登場する。ハイナー・ゲッベルスとアンサンブル・モデルンによる《Black on White》だ。
わたし自身は、かつてこの作品のCDのライナーノートの執筆を依頼されたこともあり、ライヴの映像を視聴する機会があった。
演奏家たちが、ふだん演奏している自分の楽器ではない楽器を演奏し、ポーやブランショの作品からの一部を英語やフランス語、ドイツ語などで朗読し、歩き、演戯する。光や照明による演出も大きい。ゲッベルスは「ムジークテアター」を長いこと思考=試行している人物だが、ここではまさに、音楽と演劇=劇場が同格として扱われているのである。楽器の音が、異なった言語のひびきが、足音が、動作の音がすべて「作品」の要素であり、視覚的な要素が同時並行する。そもそも「楽器を演奏する」のがそれだけで「視覚」的で、動きは演劇的でもあることをふだん忘れているーーそれをこそ、ここでは真正面からつきつけられる。

ハイナー・ゲッベルス×アンサンブル・モデルン 『Black on White』
C)Christian Schafferer

《Black on White》に極東の列島で接することができるようになるとはおもっていなかった。これをみるには、これだけのためにでもヨーロッパに行く覚悟が必要だ、とも。しかしこうして舞台が現実になる。20年前の作品なのだが、その価値はまったく減じてはいない。それは、演奏する身体がそこにあり、その身体を、発する音・音楽をしっかりと見極めてスコアに書きつけられているからだ。まして、いま、予定調和的な、こういうことを意図しています、というような作品やイベントが蔓延しているなかで、観客のイマジネーションに委ねられる「開かれた」、そして強烈なインパクトを持った作品なのである。

ゲッベルスは本誌のインタビューのなかでこんなことを言っているーー「わたし自身がみたことのない作品をつくっていきたい。おなじことをくりかえさない」と。《Black on White》は、つくられたときも、また現在においても、唯一無二の「ムジークテアター」だ。こうした作品ががあることに、上演を実現してくれるKYOTO EXPERIMENTに、わたしは自分ひとりでかもしれないけれど、いま、大きな拍手を送っている。
文:小沼純一

ハイナー・ゲッベルス×アンサンブル・モデルン 『Black on White』
C)Christian Schafferer

●ハイナー・ゲッベルス×アンサンブル・モデルン『Black on White』(日本初演)
10/27(金)19:30、10/28(土)15:00 京都芸術劇場 春秋座(京都造形芸術大学内)

一般 ¥5,000 ユース(25歳以下) 学生 ¥3,000 高校生以下 ¥1,000 ペア ¥9,500
8/8(火)発売
問:京都芸術劇場チケットセンター075-791-8240
KYOTO EXPERIMENTチケットセンター075-213-0820
http://k-pac.org/

●池田亮司×Eklekto『music for percussion』(日本初演)
10/24(火)ロームシアター京都 サウスホール

共同製作:Eklekto Geneva Percussion Center, Ryoji Ikeda Studio, La Bâtie Festival de Genève

●KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2017
10/14(土)〜11/5(日)
ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都府立府民ホール “ アルティ”、京都府立文化芸術会館、ほか

8/8(火)発売7/28〜7/31、KYOTO EXPERIMENT チケットセンターで先行販売
問:KYOTO EXPERIMENT チケットセンター075-213-0820
http://kyoto-ex.jp/

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●WEBぶらあぼ特別インタビュー〜ハイナー・ゲッベルス(作曲・演出)
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