チェロとハープが織り成す親密な会話
昨年9月にサントリーホールで行われたデビュー10周年コンサートの成功と、12月には「第18回ホテルオークラ音楽賞」受賞も記憶に新しい人気チェリスト、新倉瞳。今年2月には、小品を集めたCDリリースと発売記念リサイタルが控えている。
今回のCDでは、桐朋女子高等学校音楽科時代からの友人で、ソリストとして精力的に演奏活動を行っているハーピストの朝永侑子と共演している。
「私はスイスで彼女は英国と、留学先は違いますが共に今も海外に拠点(朝永は現在、オーストラリア在住)を置いているところが同じです。2015年に久々に再会して、スイスのベルンで一緒に演奏したら凄く楽しかったので、同じ年にブルッフの『コル・ニドライ』をレコーディングする時にもゲストで参加してもらいました。それ以来、次に小品集を録音する時は絶対に彼女でと決めていました」
ピアノに比べて音の大きさの点でチェロに寄り添うハープ。加えてふたりの距離の近さもこのデュオの魅力。
「特に彼女が弾くハープは音の粒の立ち上がりが素晴らしい。それぞれ穏やかな楽器ですが自己主張もしっかりしています。無理をせずにありのままの演奏ができるのです。そして何より、若い頃の悩める日々をよく知っている者同士の信頼感が“音楽での会話”にも現れると思います」
CDではペルトの「鏡の中の鏡」なども必聴だ。
「等身大ですっぴんの自分を見せたくて選んだ曲。今回のアルバムは“無心の祈り”がテーマですので、等身大の自分を映す、このアルバムを締めくくる大切な一曲です」
記念リサイタルの聴きどころの一つは、サン=サーンス「白鳥」とそれを意識して書かれたヴィラ=ロボス「黒鳥」とのセット。
「優雅に湖を泳いでいるかのような『白鳥』に対して、『黒鳥』は駆け抜けるハープの音色によって今回はより羽ばたいているようなイメージ。まるでバレエの舞台みたいに華やかな“対決”をお楽しみに。今回をきっかけにこのデュオでの活動も続けられたら嬉しいです」
ピアソラの「アヴェ・マリア」や黛敏郎の「BUNRAKU」などもとりあげる。
「ピアソラはリズムでも魅せますが、この曲のように愛情深く“歌わせる”のも素敵。彼女と一緒にベルンの教会で弾いたのも思い出深いです。一方『BUNRAKU』は和の響きの中にふと西洋が薫る瞬間があって、それが黛さんの“視線”のような気がして面白いですね。海外に暮らす演奏家としてはアイデンティティを大切にする意味でも、今後も邦人作品は積極的にとりあげていきたいです。特に若い世代の作曲家に興味があります。譜読みに時間をかけますので、疑問点などを直接作曲家本人にききながら進めていきたいです」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ 2017年2月号から)
新倉 瞳 CDリリース記念リサイタル〜祈り
2/17(金)19:00 Hakuju Hall
問:アスペン03-5467-0081
http://www.hitominiikura.com/
CD
『祈り〜チェロとハープ珠玉の名曲集』
ソニー・ミュージックダイレクト
MECO-1037
(SACDハイブリッド盤)
¥3000+税 2/15(水)発売