新国立劇場で上演中の新制作オペラ《ウェルテル》。タイトル・ロールを務めているのはロシア出身の若きテノール、ディミトリー・コルチャックだ。当初出演予定だったマルチェッロ・ジョルダーニの代役として急遽来日となったが、詩人ウェルテルの叶わぬ恋と愛の苦悩を甘く切なく歌い上げ、初日の客席を大いに沸かせた。
(取材・文:yokano photo:M.Terashi/TokyoMDE)
「急遽の代役ではありましたが、演出のニコラ・ジョエルさんをはじめ、海外からの招聘歌手は皆よく知った人たち。劇場のスタッフはみなさん、求めるところを察して動いてくださるし、非常に働きやすいプロダクションです。衣裳や舞台装置も非常に豪華で、お客さまは音楽だけでなく、舞台全てに満足されること、間違いありません」
コルチャックのオペラ・キャリアは華々しい。ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、ローマ歌劇場、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場など、世界の主要な歌劇場に出演している。《ウェルテル》タイトルロールも既に、モスクワやイタリアで舞台を踏んでいる。
「ウェルテルはとてもロマンティックな若者で、熱い感情を持っています。演じる上で非常に重要なのは、当時の人々の行動に見られる美学。言葉を発する時の音色、そしてジェスチャーです。体の傾け方、手の差し出し方、お互いを見る視線ーーそこに信頼があるのか、理解しあっているのかーージェスチャーを踏まえて演じなければなりません。日本はとても美学を重んじる国ですので、この演目はきっと皆さん気に入られるのではないかと思います」
初めて日本に来たのは25年前、10歳の時だという。国立モスクワ・アカデミー少年合唱団に所属し、日本ツアーにも5回参加したという。《ウェルテル》では幕の始めから終わりまで、子供たちの歌うノエル(クリスマス・ソング)が美しく響き、悲劇をより鮮烈なものにしているが、「少年合唱団出身の私にとっても、今回の6人の子供たちの歌は大変印象深く、素晴らしい」と熱く語る。
《ウェルテル》の原作は、偉大な詩人ゲーテだ。そしてウェルテルは、詩人が描く「詩人」役。歌手に求められているのは、登場人物の誰よりも、内なる熱く渦巻く感情の数々を表現することだと、コルチャックは言う。
「偉大な詩人の言葉一つひとつに丁寧に寄り添い、様々な声の音色を使い分け、そこに込められた意味を、柔らかく、そしてドラマティックに表現したいと思っています」
美しい18世紀のドイツの田舎町をイメージした、クラシックで重厚な舞台美術を背景に、激しい愛の物語が繰り広げられる、オペラ《ウェルテル》。フランスのベテラン演出家ジョエルの手による新制作のプロダクションは、2002年以来14年ぶりとなる新国立劇場での《ウェルテル》上演となる、貴重な機会だ。
■新国立劇場2015/2016シーズン
オペラ《ウェルテル》/ジュール・マスネ
Werther/Jules Massenet
全4幕〈フランス語上演/字幕付〉
2016年4月3日(日)14:00、6日(水)14:00、9日(土)14:00、13日(水)18:30、16日(土)14:00 オペラパレス
指揮:エマニュエル・プラッソン
演出:ニコラ・ジョエル
美術:エマニュエル・ファーヴル
衣裳:カティア・デュフロ
照明:ヴィニチオ・ケリ
ウェルテル:ディミトリー・コルチャック
シャルロット:エレーナ・マクシモワ
アルベール:アドリアン・エレート
ソフィー:砂川涼子
大法官:久保田真澄
シュミット:村上公太
ジョアン:森口賢二
ほか
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:TOKYO FM 少年合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団