
右:中村敬一 ©Keiichi Kimura
ロシアの児童文学作家サムイル・マルシャークの名作を原作に、作曲家・林光が日本語のテキストに作曲したオペラ《森は生きている》は、美しい音楽と台詞で紡がれる心温まる物語。ある大晦日、わがままな女王が4月に咲くマツユキ草が欲しいと言い出したため、国中大騒ぎ。褒美に目がくらむ継母の言いつけで、一人の娘が真っ暗な森に追いやられた。そこで娘が出会ったのは、時間をつかさどる十二の月の精たちだった……。
びわ湖ホール初代芸術監督の若杉弘が企画した、オペラ鑑賞者の裾野を広げることを目的とするシリーズ「青少年オペラ劇場」。2007年に「オペラへの招待」へとシリーズ名の変更はあったものの方針は変わらず、公共ホール初の劇場専属声楽家集団「びわ湖ホール声楽アンサンブル」をソリストに配し、これまでに次々と名作オペラを上演してきた。《森は生きている》は、その中でもびわ湖ホールがレパートリーとして大切にしているオペラなのだ。今回、夏からの大規模改修工事による休館を前に、5月に中ホールで上演されるのに加え、7月には東京の新国立劇場 中劇場へと届けられる。
《森は生きている》は林光が、自身の活動拠点「オペラシアターこんにゃく座」のために作曲、1992年に初演した作品。彼らは、歌手とピアノによる演奏スタイルを用いていたが、2000年にびわ湖ホールで上演するにあたり、新たに室内オーケストラ版の制作が決まり、林の意向を受けた吉川和夫がオーケストレーションを施した。初演の大成功以後、折に触れて再演が繰り返され、2009年には林自身も指揮台に登壇。今年5月の公演は通算9度目となる。この作品は「びわ湖ホール声楽アンサンブル」のメンバーが後輩に“駅伝の襷(たすき)”のように歌い継いできた、びわ湖ホールのもう一つの顔なのだ。同アンサンブルのソロ登録メンバーで、2021年の日本音楽コンクール声楽部門の覇者・船越亜弥は「《森は生きている》は曲も舞台も美しく、十二月(じゅうにつき)の仲間と共に創り上げる特別な作品です。林光さんは日本語の言葉のままにメロディを付けていらっしゃるので、歌う側にも聴く側にも台詞がスッと入ってきます。勇気や感動を実感できる魅力的なオペラなので一度ご覧になってください」と話してくれた。

歌手、スタッフともに休館前のオペラ上演はこれがラスト。演出は初演からずっと変わらず中村敬一。そして増田寿子の美術も半田悦子の衣裳も不動のラインナップ。林光から薫陶を受けた寺嶋陸也がピアノを弾き、小編成のオーケストラは日本センチュリー交響楽団が担当する。現ホール最後のオペラのタクトを執るのは、第3代芸術監督の阪哲朗。これまで「オペラへの招待」の本番の舞台でこの作品を指揮したのは僅かに3人。初演から最も多く指揮している第2代芸術監督・沼尻竜典、作曲者本人、そして寺嶋陸也だ。現芸術監督の阪は、お家芸ともいえる《森は生きている》をどのように聴かせてくれるのか。思い出が詰まった中ホール、そして新国立劇場の客席で最高の瞬間を楽しみたい。
文:磯島浩彰
(ぶらあぼ2026年5月号より)
2026.5/9(土)、5/10(日)各日14:00 びわ湖ホール 中ホール
7/18(土)、7/19(日)各日14:00 新国立劇場 中劇場
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
https://www.biwako-hall.or.jp/

