
昨年創立30周年を迎えた紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)。同じく昨年30周年だった日本製鉄紀尾井ホールが改修工事に入り、会場を東京オペラシティ コンサートホールに移して定期演奏会を開催している。2026年度の4回の定期は、3回を引き続き東京オペラシティで、最後の1回は本拠地の日本製鉄紀尾井ホールに戻る。その31年目のシーズンは、22年から首席指揮者を務めるトレヴァー・ピノックと、充実の客演アーティストたちによる、注目のプログラムが並ぶ。
シーズン初回の第146回定期は8月1日の開催。フィンランドのピエタリ・インキネンがKCO初登場。日本フィル首席指揮者を7年間務め、近年は内外各地の楽団にも客演し、広く存在感を高めている。この日の前半は得意とするシベリウスから、「カレリア」序曲と交響曲第7番。作曲者初期と最終盤の名品を並べ、母国フィンランドの大家の真髄に迫る。後半はマーラーの交響曲第4番。KCOから澄んだ音色を引き出し、室内オケでこそのマーラーでイメージを洗い直す。ソプラノは昨年3月《コジ・ファン・トゥッテ》フィオルディリージ役を歌ったマンディ・フレードリヒが華を添える。真夏の週末に爽やかな快演を。

右:マンディ・フレードリヒ ©Steffi Henn
9月12日の第147回は、ピノックによる声楽付き大作、それもブラームス「ドイツ・レクイエム」。好評を得た2023年メンデルスゾーン「讃歌」以来の聖書に基づくテキストによる大作で、深き美しさに満ちる特別な傑作を、巨匠ピノックがいかに構築するのか。人気と実力を兼ね備えたソプラノ松井亜希とバリトン大西宇宙の独唱、東京オペラシンガーズの合唱が感銘をいや増すだろう。最初にはJ.S.バッハのモテット「来たれ、イエスよ、来たれ」を置き、休憩なしで続けて演奏予定。ピノックとKCOが作り上げる、敬虔で感動的な美の世界。大きな話題を呼ぶに違いない。

右:大西宇宙 ©Marco Borggreve
11月14日の第148回は、フランスの若き名匠ピエール・デュムソーがKCOに2年ぶり2度目の登場。デュムソーは近年、KCOはじめ日本の楽団との共演機会が増え、その度に卓越した成果をあげている。今回も得意のフレンチ・プロで、愉しさ抜群のイベール「ディヴェルティスマン」、古典的なフォルムに現代的なセンスが散りばめられたプーランク「シンフォニエッタ」で、KCOの機能性と色彩感を存分に発揮させる。後半はオペラ経験豊富なデュムソーのセレクションによる、ビゼーの歌劇《カルメン》抜粋。エリザベート国際コンクール第2位はじめ、近年活躍の顕著なフランスのメゾソプラノ、エヴァ・ザイチクが初来日、これぞフランスのカルメン!という体験ができそうだ。

右:エヴァ・ザイチク ©Sylvain Gripoix
27年3月の第149回定期は、いよいよホームの日本製鉄紀尾井ホールに戻る。この大切な回に登壇するのはもちろんピノック。演目はモーツァルトの三大交響曲(第39番〜第41番)。3曲セット公演は近年珍しくはなくなってきたが、古楽・古典の世界的巨匠であるピノックの指揮となれば、話題性はひときわ高い。さらにピノックとKCOは、2004年の初共演での「ジュピター」をはじめ、約20年間でこの3曲を1度ずつ演奏し、名演を披露してきた。彼らの3曲セットとなれば、かつてない壮大な世界が顕れるに違いない。特別な名曲群で示される、ピノックとKCOの5年間の積み重ねの集大成。今後も語り継がれるような時間を体験できるだろう。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2026年2月号より)
紀尾井ホール室内管弦楽団 2026年度定期演奏会
【第146回】2026.8/1(土)
【第147回】9/12(土)
【第148回】11/14(土)
各日14:00 東京オペラシティ コンサートホール
【第149回】2027.3/12(金)19:00、3/13(土)14:00、3/14(日)16:00
日本製鉄紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp
https://kioihall.jp
※単券発売日の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。

