
Alexander Soddy
指揮
東京春祭に待望の再登場!
イギリス出身のアレクサンダー・ソディは、ドイツの歌劇場でキャリアを築き、現在はウィーン国立歌劇場やミラノ・スカラ座、パリ国立オペラやベルリン国立歌劇場など、ヨーロッパの一流歌劇場でオペラ指揮者として活躍している。日本では2022年に「東京・春・音楽祭」で東京都交響楽団とマーラーの交響曲第3番を演奏して以来、東京二期会の《椿姫》や、松本でのサイトウ・キネン・オーケストラの演奏会など、コンサートとオペラの双方で好評価を重ねている。26年の「東京・春・音楽祭」に再登場してワーグナーの《さまよえるオランダ人》を指揮するソディに、抱負をきいた。
ワーグナーの歌劇と楽劇の中で、《さまよえるオランダ人》は最初期の作品となる。
「《さまよえるオランダ人》以降のワーグナーのオペラは10本で、数はそれほど多くない。でも《パルジファル》までの道のりは長い旅であり、その途中での変化を過小評価してはいけないと思います。《さまよえるオランダ人》にもワーグナー独自の音楽語法や哲学はすでに芽生えていますが、それに加えて、若さゆえのパワーやエネルギーがあります」
その特徴を端的に示すのがテンポだ。
「終点の《パルジファル》からさかのぼってしまうと、すごく重い、ゆったりしたものになってしまう。でもスタート地点として考えると、《フィデリオ》や《魔弾の射手》のような作品からの影響を見ることができる。ワーグナーはベッリーニのロマンティックなオペラも大好きだったんです。そうした背景も忘れてはいけないと思います」
俊敏で、活力に満ちた演奏が期待できそうだ。そして今回の上演で主要な役を歌う4人、ゼンタ役のカミラ・ニールンド、オランダ人役のミヒャエル・クプファー=ラデツキー、エリック役のデイヴィッド・バット・フィリップ、ダーラント役のタレク・ナズミとは、各地の歌劇場ですでに共演を重ねている。
「私は歌劇場で20年働いてきましたから、全員をよく知っています。とりわけニールンドとは共演がいちばん多くて、今シーズンに限ってもスカラ座でブリュンヒルデ、ウィーン国立歌劇場でクリソテミス(《エレクトラ》)を歌ってもらいます。ゼンタ役でも前に共演していて、互いにとても信頼しあっています」
ニールンドは2025年10月のウィーン国立歌劇場の来日公演で《ばらの騎士》の元帥夫人役で好評を博したが、ウィーンではソディの指揮で同じ役を歌うそうだ。
「ワーグナーに関わる音楽家の世界というのは狭いものなんですよ(笑)。どの歌い手も感受性豊かでとても知的。声に恵まれているだけでなく、音楽家としても素晴らしい人たちばかりなので、とても楽しみなキャスティングです。ワーグナーでは歌手、指揮者、オーケストラ、合唱が、一体となって音楽を作っていかなければなりませんから」
今回はソディの希望により、全幕を休憩なしで上演する。それはワーグナーがもともと望んでいた形式であり、ドラマとしての一貫した流れがより明快になる。
11歳のとき、オックスフォード大学のモードリン・カレッジ合唱団の日本公演の一員として日本を初めて訪れたというソディ。それ以来日本に親近感を抱き、指揮者としては東京都交響楽団、読売日本交響楽団、そしてサイトウ・キネン・オーケストラと、日本を代表する優秀なオーケストラを指揮してきた。今回はNHK交響楽団との共演をとても光栄に思っているという。
「音楽祭にふさわしい、日本で最高のオーケストラと素晴らしい歌手たち、そして傑出した作品と三拍子揃った形で、日本で上演できるのは私にとって大きな喜びです。ドラマとしての面白さと豊かな音色をもち、エキサイティングで長すぎない作品だけに、音楽祭のハイライトにふさわしい演奏会になると私は信じて疑いません。そして、日本の素晴らしい聴衆のみなさんとまたお目にかかれることを、今からとても楽しみにしています」
取材・文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2026年2月号より)
東京・春・音楽祭2026
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.17 《さまよえるオランダ人》(演奏会形式)
2026.4/5(日)15:00、4/7(火)18:30 東京文化会館
出演/アレクサンダー・ソディ(指揮)、カミラ・ニールンド(ゼンタ)、ミヒャエル・クプファー=ラデツキー(オランダ人)、タレク・ナズミ(ダーラント)、デイヴィッド・バット・フィリップ(エリック)、カトリン・ヴンドザム(マリー)、トーマス・エベンシュタイン(舵手)、NHK交響楽団(管弦楽)、東京オペラシンガーズ(合唱) 他
問:東京・春・音楽祭サポートデスク050-3496-0202
https://www.tokyo-harusai.com

山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki
1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
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