
11月11日の京都を皮切りに全5都市6公演の日本ツアーを行ってきたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団。最終日となった18日、公演に先立つこと数時間前のサントリーホールで、クラウス・マケラも登壇して来日記念 記者会見が行われた。世界が注目する天才指揮者と超名門オーケストラの共演となった今回、全公演が完売という盛況ぶりで、会場にはSOLD OUTの文字をあしらったポスターが特別に用意された。マケラはフィンランド出身の29歳。2027年から同楽団の首席指揮者に就任することが決まっているが、すでに60回近くのコンサートを共にし信頼を深めてきている。さらに27年にはシカゴ交響楽団の首席指揮者に就任することも発表されている。

名だたる楽団から引く手あまたの非凡な音楽的才能のみならず、彫刻のような風貌も併せ持つスター指揮者は、穏やかな微笑みを湛えて会見の会場に現れた。質疑応答では、すべての質問者に「Thank you for your question」と目を見て語りかけ、どこまでもナチュラルに、誠実に答えている様子が印象的だった。
以下に、コメントを紹介する。
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皆さま、こんにちは。日本にこのように毎年来られることは私にとって大きな喜びです。今回、特にワクワクしているのは、私の将来のオーケストラ、コンセルトヘボウと一緒にツアーができることです。我々はもう、非常に近しい関係にありますが、ツアーをするということは格別な経験でした。同じプログラムを異なるホール、異なる聴衆の前で演奏し、常に何か新しい発見がないかと音楽を深く掘り下げています。私たちは日本のホールも人々も大好きです。そして聴衆の皆様のオーケストラの聴き方、本当に集中して情熱をもって一生懸命聴いてくださるのは素晴らしいことだと思います。
その中でもサントリーホールでの演奏は、我々にとってもハイライトのひとつです。そして、自分たちにとって大切な作品を日本の皆様に聴いていただけることをとても嬉しく思っています。 マーラーやシュトラウス、彼らは元々指揮者で、コンセルトヘボウ管の指揮もしていました。 シュトラウスは30回以上この楽団を指揮していますし、マーラーは自作の曲を初演したり、改訂版を指揮したりしています。

そしてすべての音をじっくりと聴いていただきたいと思っています。 私たちはこのような伝統、シュトラウスやマーラーから受け継いできたものを脈々と次の世代に伝えています。 私にとって、過去を尊重することと同じように、その音色と伝統を未来へと導いていくことが、この上ない喜びなのです。
Q. コンセルトヘボウ管の魅力について
世界の偉大なオーケストラには異なる個性や異なる人々がいます。例えば、ベルリン・フィルやウィーン・フィルもそれぞれ演奏法が違いますよね。 とはいえ、すべてのオーケストラが最高水準の演奏を目指している点は共通しています。
このコンセルトヘボウに関しては、非常に有機的な楽団だと思っています。音楽は呼吸し、対話をしていて、コミュニケーションそのものです。そして驚くほど美しい演奏を披露するのです。
Q. フィンランドで優秀な指揮者が多い理由は?
フィンランドというのは特別なところです。 人口が550万、サウナの数が350万、そしてその3分の1が指揮者というぐらい大勢指揮者がいるんです(会場 笑)。いま30人ほどの指揮者が世界で活躍していますが、共通点はひとりの先生、ヨルマ・パヌラ先生です。現在、確か94歳だと思いますが、今でも土曜日はレッスンを続けているそうです。
フィンランドは面積から言うと非常に大きな国ですけれども、人口は少ない。今日ではそれほどではないのですが、政治家が長年力を入れてきたのが文化です。政府の支援により20以上のプロ・オーケストラがありますが、これは人口を考えるとすごい数なんです。ですから若い指揮者は、小さいオーケストラからキャリアを始め、そこから経験と学びを重ねていきます。 私自身、若い時に自然と指揮者になりたいと思っていました。冗談で「ヘルシンキでは配管工より指揮者を見つける方が簡単だ」というくらい普通の職業なんです。

Q. 最初にフルオーケストラを指揮したのは、何歳の時?
パヌラ先生は、指揮を始めるなら若ければ若いほどいい、その方が自然に指揮ができるようになると考えています。ですが、これには矛盾もあって、やはり指揮というのは経験が必要です。私が指揮の勉強をはじめたのは12歳だったのですが、「12歳が音楽のこと、人生の何を知っているんだ?」っていう感じです。若いときから勉強すると体の使い方が自然になりますし、自分というものがよくわかります。そして、人を引っ張っていくことは無理やりやらせるのではなく、自分がいい指揮をすればみんなが付いてきてくれるのだということがわかるようになります。
一方で、音楽には長い時間がかかります。人生をかけて学んでいくものだと思っています。良い例がブロムシュテットさんで、たぶん100歳近いと思いますが、今でも毎日同じスコアを見ながら「どうしたらもっと良くなるだろう?」と考えています。そのように生涯を通して学んでいくのが音楽だと思います。

ドミニク・ヴィンターリンク(ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団マネージング・ディレクター)
取材・文・写真:編集部
Royal Concertgebouw Orchestra
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KAJIMOTO
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