
ピアノ界の新しいスターが誕生する5年に一度の場、ショパン国際ピアノコンクール。第19回となる今回は、10月3日からの3週間にわたってワルシャワで開催された。日本からも多くのピアノ愛好家が、時差に苦労しながらも、ライブ配信で若者たちの渾身のショパンとの出会いを楽しんでいたのではないだろうか。
そんなショパンコンクールで入賞者として名を刻んだ面々が、いち早く日本に来日する。コンクール終了から2ヵ月足らずの12月にまず行われるのは、エリック・ルーによる優勝者リサイタル。2015年(チョ・ソンジンが優勝した回)の第4位である彼は、その後2018年にはリーズ国際ピアノコンクールに優勝してすでに世界で活躍していた存在。“受けるならば前回より良い結果を”という期待は避けられない状況の中、大きなプレッシャーを抱えて10年越しで大舞台に挑み、第1位の栄冠に輝いた。
今回の2夜にわたる優勝者リサイタルでは、コンクールの演目から、ノクターン第7番やポロネーズ第5番、そしてファイナルで協奏曲と併せて新たに課題となった「幻想ポロネーズ」などを披露する。なかでもそれぞれの公演に分けて演奏されるピアノ・ソナタ第2番「葬送」(12/16)と第3番(12/15)は、彼にとって特別なレパートリーだという。
コンクール中のルーの演奏の一部は、ショパンが心の底に抱いた哀しみや葛藤を痛切に再現するようで、彼は一体どんな苦悩を抱えてこの舞台に立っているのだろうと心配になるほどのすさまじさだった。実演で触れる機会を楽しみにしてほしい。

そして1月後半からは、入賞者がメンバーを少しずつ入れ替えながら全国各地を回る。ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団も来日し、コンクールのフィナーレにワルシャワ現地で行われたガラ・コンサートを再現するような華やかな演奏会だ。
ルーが一部公演で演奏するのは、ピアノ協奏曲第2番。多くの人が選ぶ1番ではなく2番で優勝するのは、彼の師であるダン・タイ・ソン以来45年ぶり。そのノーブルで哀愁を帯びた音楽性が2番によく合って、まるでこの曲は彼のためにあるのではないかと思うほどだった。
第2位となったのは、ジュネーヴやルービンシュタインなど数々のコンクールで続けざまに優勝に輝き、今回も有力候補として注目されていた弱冠二十歳のケヴィン・チェン。鮮やかなテクニックによるエチュードop.10で聴衆とおそらく審査員も驚かせ、しかし本来持ち合わせている奇を衒わない真っ直ぐな音楽性が評価された俊英。一段と確信にあふれ、伸びやかさを増した演奏を披露してくれることだろう。
第3位となった中国のワン・ズートンは、現在ニューイングランド音楽院でダン・タイ・ソンのもと学ぶ26歳。コンクールでは個性的なプログラミングにセンスが光り、またその無理なく豊かに鳴る音が印象的だった。
そして第4位の桑原志織は、彼女が近年あまり弾いてこなかったというショパンで、ピアニストとして新境地を切り拓いた。そのたっぷりとしたつややかな音色と気品あふれる歌心で、1次予選から地元ポーランドの聴衆をすっかり虜にしていた。12月10日にはソロリサイタルも開催される。同4位には天性の才能で魅了した16歳、中国のリュウ・ティエンヤオが入賞。

また楽しみにしてほしいのが、人気急上昇の新星、第5位のヴィンセント・オン。マレーシアで生まれ育ち、ここ2年はベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で学び、アレクサンダー・ガジェヴや三浦謙司の弟弟子にあたるという。正統的でありながら聴き手をわくわくさせる彼の音楽の虜になったという人が続出し、年明け2月5日には期待に応え、ソロリサイタルも行われることになった。
唯一のヨーロッパ人でありポーランド人ファイナリストという重圧の中、自分の音楽を出し切ったピォトル・アレクセヴィチも同じく第5位に入賞。そして卓越した技術で独自のショパンへの愛を歌い切った第6位のウィリアム・ヤンと、大変個性的な面々が揃う。
ガラ・コンサートはそれぞれの公演で出演できるピアニストと演目が少しずつ異なるので、お近くの会場に目当てのピアニストが出演するのかを含め、要チェックだ。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2025年12月号より)
ショパン国際ピアノコンクール 2025 優勝者リサイタル
2025.12/15(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール【完売】
12/16(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール【完売】
問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
ショパン国際ピアノコンクール 2025 入賞者ガラ・コンサート
2026.1/22(木)18:30 熊本県立劇場 コンサートホール(096-363-2233)【完売】
1/23(金)19:00 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)【完売】
1/24(土)14:00 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000) 11/23(日・祝)発売
1/25(日)14:00 京都コンサートホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000) 11/22(土)発売
1/27(火)、1/28(水)各日18:00 東京芸術劇場 コンサートホール(ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212)【各日完売】
1/29(木)18:00 ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)【完売】
1/31(土)13:30 愛知県芸術劇場 コンサートホール(中京テレビクリエイション052-588-4477)【完売】
https://www.japanarts.co.jp
※公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/

