日本オペラ振興会が2026/27シーズンラインナップを発表

 公益財団法人日本オペラ振興会(藤原歌劇団、日本オペラ協会)が11月5日に都内で会見を開き、2026/27シーズンのラインナップを発表した。会見には、分林保弘(日本オペラ振興会理事長)、郡愛子(同総監督)、出演者を代表して、星出豊(指揮)、伊藤晴(ソプラノ)、須藤慎吾(バリトン)が登壇した。

左より:須藤慎吾(バリトン)、郡愛子(日本オペラ振興会総監督)、分林保弘(日本オペラ振興会理事長)、星出豊(指揮)、伊藤晴(ソプラノ)

 同財団にとって2025年は、大きな変革を迫られた年と言える。今年3月に理事長に着任した分林は財団の運営をめぐる一連の動きについて「藤原歌劇団は90年以上、日本オペラ協会も67年と歴史があります。長年やっていますとやはりアカが溜まっている部分もあり、この半年間でだいたい整理がついた。昔の悪しき習慣をなくし、今後はもっと改革を進めていきたい」と語る。

 続いて郡総監督からは、「1200人の団会員が所属しており、前に進みたいという気持ちで頑張っています」と前置きした上で、新シーズンのラインナップ3演目について説明した。「2026/27シーズンの公演テーマは『再起』となりますが、藤原歌劇団は藤原らしく、日本オペラ協会は日オペらしくやっていきたい」と、両団体あわせて3演目、うち2演目がニュープロダクション(新制作)で上演される。11月以降と下半期に公演が集中しているが、上半期にはコンサートの企画も予定しているという。

 公演数について「日本オペラ協会は制作予算と集客のバランスがよかったが、藤原は素晴らしい公演を行っているものの、そのバランスが悪かったように思う。今回は全体の公演数が3本に減るが、質を高めて団会員の力を活かせるような作品を行い、再起したいという強い思いです」と意向を述べた。

2026/27シーズンラインナップ

藤原歌劇団・日本オペラ協会合同公演/NISSAY OPERA 2026
⚫︎團伊玖磨《夕鶴》オペラ全1幕
ニュープロダクション(新制作)
2026.11/27(金)、11/28(土)、11/29(日) 日生劇場
指揮:星出豊 演出:粟國淳
出演:伊藤晴、芝野遥香(以上つう)、澤﨑一了、松原陸(以上与ひょう) 他
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

日本オペラ協会公演
⚫︎水野修孝《天守物語》オペラ全2幕
ニュープロダクション(新制作)

2027.1/9(土)、1/10(日) 昭和女子大学人見記念講堂
指揮:園田隆一郎 演出:中村敬一
出演:佐藤美枝子、小林厚子(以上富姫)、須藤慎吾、村松恒矢(以上図書之介)、小林沙羅、別府美沙子(以上亀姫) 他
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

藤原歌劇団公演
⚫︎G.プッチーニ《蝶々夫人》オペラ全3幕
2027.3/6(土)、3/7(日) 新宿文化センター大ホール
指揮:柴田真郁 演出:粟國淳
出演:砂川涼子、 迫田美帆(以上蝶々夫人)、笛田博昭、海道弘昭(以上ピンカートン)、岡昭宏(シャープレス) 他
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 開幕公演となる26年11月の《夕鶴》は、日生劇場と共催で、藤原歌劇団と日本オペラ協会による合同公演という位置付け。この上演には数々の意味合いが重なり、「脈々と受け継がれる日本オペラ振興会ならではの歴史を、みなさまに肌で感じてほしい」という想いが込められているという。
 その「歴史」というのは、現在まで国内外で800回以上も上演されている名作《夕鶴》の初演(1952年)を藤原歌劇団が手がけている点。二つ目に、2026年が、国内に西洋オペラを普及させ、日本独自のオペラを海外に拡めるビジョンを持っていた藤原歌劇団の創立者・藤原義江の没後50年にあたること。3つ目に、その藤原義江逝去前後、不況にたたされていた藤原歌劇団を立ち直らせる契機となった公演に、(今回の演出を手がける粟國淳の父)故・粟國安彦と、今回指揮台にたつ星出豊が携わっていたこと。そして、日生劇場で演出家・鈴木敬介による名プロダクション《夕鶴》が上演されてきたことを挙げた。

 水野修孝作曲《天守物語》は、泉鏡花による戯曲をもとに、ザルツブルク・テレビオペラ賞に出品するために、NHKの委嘱により制作された作品。日本オペラ協会創立20周年記念として1979年に初演され、その後もたびたび新制作上演してきた同協会にとって特別なオペラだ。9回目の上演となる今回は、中村敬一演出によるニュープロダクションで行われる。
郡「日本オペラ協会が初演し好評をはくしたこのオペラに、いまを代表するキャストを配して新演出することで、このオペラの素晴らしさや日本オペラの魅力を改めて感じていただきたい。富姫を演じる佐藤美枝子さん、小林厚子さんのエネルギーを楽しみに、ぜひ2日間とも観にいらしてほしい」

 3本目の《蝶々夫人》は「伝説の演出家・粟國安彦から受け継がれる50年にわたって使用されてきた舞台装置をそのままに、粟國の血を引く当代最高のオペラ演出家・粟國淳による”藤原の蝶々夫人”」となる。注目はタイトルロールに満を持して挑む砂川涼子。そのほかのキャストも、日本オペラ振興会が誇る現在最高のメンバーを配した。

 藤原歌劇団とはかねてより共演を重ねる星出は、1997年に新国立劇場のグランドオープンを飾った團伊玖磨《建・TAKERU》を指揮しており、その際に團より《夕鶴》の楽譜を前にして作品の解釈を直伝されたという。オペラ化される際の貴重なエピソードを語ってくれた。

「(原作者の)木下順二先生は『オペラにしてはいけない、芝居でやる台本だ』と仰っていたそうですが、その芝居のバック音楽を團先生がお書きになっていました。作っていいよと言われた時、新劇でつうを演じていた山本安英先生のイメージを絶対崩さないでほしい、という厳しいお達しがあったといいます。つうが〈与ひょう、与ひょう〉と呼ぶ時に、山本先生は歌うが如く語っていました。團先生はそのままの音程で、つうをお書きになっています。楽譜からテンポや強弱、山本先生が演じられた心の表現を読み取り指揮していましたが、團先生から『そういう表現がほしかったんだ、君が振る時にはぜひこのスタイルを伝えるが如く続けてほしい』と仰っていただき、今回はそれを再現したいと思います」

 つうを演じる伊藤晴は、2018年にこの役を歌っており、8年ぶりの挑戦となる。
「今回はより豊かな音楽表現や演技でみなさまにお届けしたいです。星出マエストロの團先生とのやりとりをいま初めて伺い、 責任重大な役どころと感じています。普段はイタリア・オペラで共演させていただくことが多いマエストロですが、母国語ということでより緻密な表現を求められると思います。それを稽古で受け止めて吸収することがお客さまの感動につながるかと。日生劇場はお客さまとの距離が近いので、これまでも相手の息や音楽に反応して演奏してきましたが、よりダイレクトに日本語の印象を届けられることがとても楽しみです」

提供:日本オペラ振興会

 続いて《天守物語》で図書之介役を演じる須藤慎吾。以前から興味を持っていた役だという。
「演じる上でひとつのハードルは、姫川図書之介が美丈夫、いわゆる男前、というところ(笑)。封建時代の武士の勇ましく、若く強い、心の清い男・図書之介という表現であれば、いわゆるわれわれが思い描く歌舞伎の美しいスターたちが演じる図書之介ではなく、もっと演劇に近いような、生々しい武士の姿が浮かび上がってくる。自分なりに作っていければと思います。
 先ほどから“歴史”をたくさん聞きました。藤原義江先生が仰っていた日本のオペラを最終的にはやっていきたい、という思いで立ち上げた藤原歌劇団の一歌手として、藤原でイタリアものをたくさん歌っていた歌手たちーー 佐藤美枝子さん、小林厚子さん、まさにプリマドンナとの共演がとても楽しみです」

 「これからの時代にふさわしいオペラ団体を目指していく」と郡総監督の力強い言葉のとおり、この先も日本オペラ振興会が邁進していくことを期待したい。

文:編集部

日本オペラ振興会
https://www.jof.or.jp