ホールの響きを活かした絶妙な選曲
紀尾井ホールが、今後の活躍に期待する才能を招いて旬の演奏を聴く『紀尾井 明日への扉』。第9回に登場するのは、東京芸術大学からドイツのハノーファー音楽大学に留学して研鑽を積む、ピアニストの阪田知樹だ。彼は最近こうした気鋭の若手を紹介する企画に引っ張りだこ。そのスケールの大きな演奏に、音楽ファンや業界が熱い期待を寄せていることがよくわかる。
彼が一躍注目を集めたのは、2013年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで最年少ファイナリストとなった19歳のとき。コンクールという場でもこだわりの選曲で聴衆を魅了したが、今回もまた、紀尾井ホールの響きを考慮したオリジナリティあるプログラムで、独特の感性を披露する。
このホールの響きは特にバロック作品との相性がよいと感じていたという阪田は、前半にバッハから「マルチェッロのアダージョ」とフランス組曲第5番を置く。留学先で古楽器を学び、バロック音楽への興味が増しているというから、持ち前の粒立ちの良い音もますます磨かれていることだろう。そして得意とするリストから、「詩的で宗教的な調べ」より第3曲「孤独の中の神の祝福」。紀尾井ホールならではの「丸みのある響きで聴いてほしい」と意欲を示す。ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番では彼の豊かで生命力のある音を堪能できそうだ。
豊かな音楽性で、幅広い時代の多岐にわたる作品を着実に描き分ける。さらなる飛躍を目前に、軽やかなステップで前進する阪田の今を聴いておこう。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年8月号から)
9/25(金)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp