【CD】ソング/伊地知一子

 ベルカントのような歌唱法とは異なり、日常の発声の延長で言葉の特性を最大限尊重して歌う、しなやかな歌がソング。テーマも庶民の等身大の情感や社会風刺などを扱う。本盤はパフォーマーとして活動する伊地知の原点回帰の一枚。1978年、高校を卒業して鹿児島からあてもなく上京した彼女はこんにゃく座のソングに魅了され、そのまま座員になる。同時期に東京藝大を卒業して入座したのが本盤でピアノを弾く作曲家・萩京子だった。戦前ドイツのブレヒト/ヴァイルの協業から生まれたソングは、極東の島国の芝居小屋のような場所で種を撒かれ芽を出した。そんな時代の息吹が約半世紀を経て蘇る。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年9月号より)

【information】
CD『ソング/伊地知一子』

ブレヒト:マリー・Aの思い出/ヴァイル:バルバラ・ソング、溺れた少女のバラード/萩京子:ひどく、ルフラン、鳥、HELP!、メッセージ、暗い柳の木立のかげ、遺言/アイスラー:世界の示す友情について、すももの木/林光:うた、暗い晩、ぐるぐるまわりの歌、新しい歌 他

伊地知一子(歌)
萩京子(ピアノ)

コジマ録音
ALM-7312 ¥3300