
11ヵ国から58名のコンテスタントが集結、2台のSK-EXから選定するという新たな制度も
文:高坂はる香
2017年に河合楽器製作所の創立90周年を記念してスタートし、2年に一度行われているShigeru Kawai 国際ピアノコンクールが、この夏開催される。
これまでの優勝者を振り返ると、第1回の三浦謙司を筆頭に、アンドレイ・シチコ(ベラルーシ)、イリヤ・シュムクレル(ロシア)、そして前回優勝のニコラス・ジャコメリ(イタリア)と、国際色豊かで個性的なピアニストが顔を揃える。

同社の最高峰のグランドピアノの名を冠したこのコンクールでは、もちろん、完璧に整えられたShigeru Kawai SK-EXが全ステージで使用される。巨匠ミハイル・プレトニョフが愛用していることで知られるほか、先の仙台国際音楽コンクールピアノ部門でも優勝者が選択するなど、国際コンクールでの評価も高い楽器だ。
5回目の開催となる今回は、11ヵ国から58名*のコンテスタントが出場予定。今回から下限の年齢制限が取り払われたが、予備予選の結果、16歳から29歳のピアニストたちが集うことになった。
*7/26現在、11ヵ国56名
その顔ぶれは、ピティナ・ピアノコンペティションや日本音楽コンクールなど国内の主要コンクール入賞歴のある日本人はじめ、モスクワやニューヨーク、パリ、ベルリンなど世界各地の名門音楽院で学んだピアニスト、有望な経歴を持つティーンエイジャーなど多彩で、期待値が高い。

第5回 Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール出場者(末尾の数字は2025年7月26日時点の年齢)
1 東祐輔 Yusuke AZUMA(日本)28
2 チェン イーハン Yihang CHEN(台湾)23
3 大同理紗 Risa DAIDO(日本)21
4 ファン ユアン Yuang FAN(中国)20
5 ピエトロ フレサ Pietro FRESA(イタリア)25
6 藤平実来 Miku FUJIHIRA(日本)25
7 藤川天耀 Takateru FUJIKAWA(日本)23
8 ガオ チョンジュン Chengjun GAO(中国)20
9 五条玲緒 Reo GOJO(日本)25
10 ハン ユリャン Yuliang HAN(中国)17
11 ギジェルモ エルナンデス バロカル Guillermo HERNANDEZ BARROCAL(スペイン)17
12 東島由衣 Yui HIGASHIJIMA(日本)24
13 ホア ズーシン Zixin HUA(中国)18
14 ファン イートン Yi-teng HUANG(台湾)26
15 稲垣拓己 Takumi INAGAKI(日本)24
16 石橋愛 Ai ISHIBASHI(日本)28 辞退
17 ジア モーハン Mohan JIA(中国)18
18 神原雅治 Masaharu KAMBARA(日本)22
19 河尻広之 Hiroyuki KAWASHIRI(日本)27
20 河野悟士 Satoshi KONO(日本)21
21 ソニア コヴォリック Sonja KOWOLLIK(ドイツ)24
22 パヴレ クルスティッチ Pavle KRSTIC(セルビア)27
23 アレクサンドル クトゥーゾフ Aleksandr KUTUZOV(ロシア)28
24 マリヤ クズミナ Mariia KUZMINA(ロシア)18
25 ラファエル キリチェンコ Rafael KYRYCHENKO(ポルトガル)29
26 イ ドフン Dohun LEE(韓国)19
27 イ セボム Saebeom LEE(韓国)29
28 イ ソウン Seoeun LEE(韓国)16 辞退
29 リー ティエントゥオ Tiantuo LI(中国)21
30 ルオ ジエ Jie LUO(中国)23
31 グレゴリー マーティン Gregory MARTIN(アメリカ)27
32 南ことこ Kotoko MINAMI(日本)22
33 美里芽玖 Megu MISATO(日本)23
34 三浦颯太 Sohta MIURA(日本)24
35 森永冬香 Fuyuka MORINAGA(日本)23
36 長山佳加 Yoshika NAGAYAMA(日本)23
37 仲山晴香 Haruka NAKAYAMA(日本)19
38 小形然 Zen OGATA(日本)22
39 岡田芳樹 Yoshiki OKADA (日本)20
40 大野謙 Ken ONO(日本)25
41 大山桃暖 Modan OYAMA(日本)19
42 朴沙彩 Saaya PAKU(日本)19
43 ポン イーシン Yixin PENG(中国)22
44 レン ツーミン Ziming REN(中国)29
45 坂原菫礼 Sumire SAKAHARA(日本)25
46 塩﨑基央 Motochika SHIOZAKI(日本)23
47 杉本沙織 Saori SUGIMOTO(日本)29 辞退
48 鈴木優輔 Yusuke SUZUKI (日本)27
49 津野絢音 Ayane TSUNO(日本)21
50 上西富美子 Fumiko UENISHI(日本)22
51 梅﨑秀 Shu UMEZAKI(日本)29
52 ウー フィオナ Fiona WU(台湾)24
53 ウー ナターシャ Natasha WU(台湾)25
54 シア ホーティン Heting XIA(中国)22
55 山本悠流 Yuri YAMAMOTO(日本)25
56 ヤオ ジャリン Jialin YAO(中国)26 辞退
57 米滿希咲来 Kisara YONEMITSU(日本)22
58 チャン ジュオイェン Zhuoyan ZHANG(中国)16
59 チェン ジリン Zhilin CHEN(中国)24
60 マリア アンヘレス アヤラ María Ángeles AYALA(スペイン)28
審査員:植田克己 (審査委員長、日本)、フィリップ・ジュジアーノ(フランス)、ケヴィン・ケナー(アメリカ)、三木香代(日本)、パーヴェル・ネルセシヤン(ロシア)、小川典子(日本)、岡本美智子(日本)
7月26日〜30日に行われる1次予選とセミファイナルの会場は、サロンコンサートでおなじみのカワイ表参道パウゼ。若いピアニストの息遣いまで感じられる距離で、1台のSK-EXから引き出される音色の違いをはっきり聴きとることができるだろう。
課題曲を見ると、1次予選(20分以内)は、シューベルト、ショパン、メンデルスゾーン、ブラームスの指定の小品から1曲と残りは自由。続くセミファイナル(30〜40分)は、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのソナタまたは変奏曲から1曲と自由選択。ロマン派の自然な歌心と、古典派作品の構成力や適切なタッチという、ピアニストとしての基礎を確かめつつ、選曲のセンスや各自の強みを知ることができる課題となっている。
続けて8月2日、渋谷区文化総合センター大和田さくらホールに会場を移して行われるファイナルでは、6名のファイナリストが2台ピアノによる協奏曲を披露する。

オーケストラパートの共演は、アンドレイ・ピサレフとアレクセイ・メルニコフ。いすれもロシアン・ピアニズムを後進に伝えたモスクワ音楽院の重鎮、故セルゲイ・ドレンスキー教授門下の名手だ。課題曲のリストにある協奏曲は、モーツァルト、ベートーヴェンからチャイコフスキー、ラフマニノフまで幅広い。このオーケストラパートのピアノを聴くだけでも価値があるといえるかもしれない。
そして今回からの新制度として興味深いのが、ファイナルでキャラクターが少し異なる2台のSK-EXが用意され、ファイナリストは前日にピアノ選定を行うということ(加えてオーケストラパート用と計3台のSK-EXが用意されることになる)。これには、今後国際コンクールでの経験を重ねるであろう若いコンテスタントに、短時間でピアノを選ぶ、コンクールならではの“ピアノセレクション”の経験を積んでもらうことも目的としているという。ピアノは重要なパートナーであり、この選択が時に演奏に関わることを実感している主催者ならではの試みといえる。聴衆としては、同じSK-EXといっても、多様なピアニストの好みに応えるさまざまな個性を持っていることを知る、良い機会になるだろう。楽器の聴き比べは、シンプルにおもしろい。
審査委員長は、東京藝術大学名誉教授の植田克己。ほか日本からは小川典子、三木香代、岡本美智子、海外からは、フィリップ・ジュジアーノ(フランス)、ケヴィン・ケナー(アメリカ)、パーヴェル・ネルセシヤン(ロシア)という7名が審査にあたる。
ネットでのライヴ配信もあるので、セミファイナルまではネットで聴いて、お気に入りのピアニストに出会えたらファイナルやガラコンサートは会場で生の音を聴き応援する、という楽しみ方もできる。
世界から集う若者の音楽表現とShigeru Kawaiの豊かな音を味わいながら、次なる優勝者誕生の瞬間を見届けよう。
写真提供:河合楽器製作所
第5回 Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール(SKIPC)
1次予選 2025.7/26(土)~7/28(月)各日11:00 カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
セミファイナル 7/29(火)~7/30(水)各日11:00 カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
ファイナル 8/2(土)13:00 渋谷区文化総合センター大和田「さくらホール」
入賞者演奏会 8/3(日)15:00 カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
[チケット情報] https://skipc.jp/news/20250418/

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/






