メリカントはシベリウスよりも3歳年下で、ピアノ曲や歌曲を多く書いたことから生前はシベリウスよりも人気があったという。この知られざる作曲家の歌曲から24曲を、フィンランドに学んだバリトンの鈴木啓之が録音した。北国特有の自然の峻厳さ、生と死のコントラストをテーマにした詩句が哀愁を湛えた旋律に乗って歌われ、ピアノは激しくドラマティックに高潮する。これらの曲にはヨーロッパやスラヴ系の言語とは違ったフィンランド語の響きの特性が感じられるが、鈴木の歌声はその特性を柔らかく捉えながらほのかな官能性を添え、ピアノ(玉田裕人)も鮮やかなテクニックで支えている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年12月号より)
【information】
CD『オスカル・メリカント歌曲集/鈴木啓之&玉田裕人』
オスカル・メリカント:ねんねん坊や、行商人の歌、金のかけら、陽が輝くとき、柔らかく響け 我が悲しみの調べ、火が消え入るように、墓地の小鳥へ、宵の口、歌曲集「墓場から」、ラドガ湖、夕べの鐘 他
鈴木啓之(バリトン)
玉田裕人(ピアノ)
録音研究室(レック・ラボ)
NIKU-9065 ¥3080(税込)